ジャック・アタリ氏の人物像

現在、母国フランスでサルコジ大統領のブレーンを務めるジャック・アタリ氏は経済学者であり、思想家、歴史家、小説家、教育者などの顔も併せ持つヨーロッパを代表する知性の一人だ。

1943年、アルジェリアの首都アルジェ生まれ。フランスには「グランゼコール」と呼ばれるスーパーエリート養成機関があるが、アタリ氏は理工系の最高峰の一つであるエコール・ポリテクニックに加え、パリ政治学院、国立行政学院という3つのグランゼコールを卒業している。

81年、38歳の若さで当時のミッテラン政権の大統領特別補佐官に抜擢され、大統領の知恵袋として注目を浴びる。91年には自ら提唱した「ヨーロッパ復興銀行」の初代総裁を務めて、共産主義国家だった中・東欧諸国の自由主義経済化を大いに後押しした。90年のドイツ再統一や92年のEU成立の陰の立役者としても評価されている。2009年の初のEU大統領選挙では、フランス側の有力な候補になった。また途上国支援を目的としたNGO団体「プラネットファイナンス」を創設し、世界的な活動を展開している。

アタリ氏にはこれまで約50冊の著作があるが、『21世紀の歴史』(邦訳・作品社)は、刊行の翌年に発生した「サブプライム問題」や「世界金融危機」を予見したものとして大きな反響を呼んだ。

同書に感銘を受けたサルコジ大統領は07年にフランスの21世紀戦略の作成をアタリ氏に依頼、仏大統領の諮問委員会である「アタリ政策委員会」が発足した。10年10月、アタリ政策委員会は第2回報告書でフランスの財政再建戦略を発表、現在、フランス国内で激しい論議が交わされている。

この財政再建戦略の基本理念になったといわれているのが、アタリ氏が10年に上梓した『国家債務危機』(邦訳・作品社)である。同書でアタリ氏は国家主権と公的債務危機の歴史をたどりながら、今後10年の世界の公的債務問題の展望とその対処法を提示している。

今年1月、『国家債務危機』日本語版の刊行を記念してアタリ氏が来日、多忙なスケジュールの中、大前研一氏との対談が実現した。

(小川 剛=構成 林 昌宏=編集協力 大沢尚芳=撮影)