国家債務危機は物理現象である、とするアタリさんと私の意見は完全に一致している。私は物理よりも「算数」に近いと思っている。今の日本国を運営していくのに一体いくらのカネがかかっているのか? 220兆円である。ところが一般会計と呼ばれる予算は92兆円である。不足部分の半分は税ではなく保険や年金などの特別会計で処理されている。国債の償還や利払いも特会である。旧大蔵省の発明したこの特会が素人だけでなく政治家たちの理解を鈍くしている。

菅直人首相の言い出した「税と社会保障の一体改革」はこの両方を俎上に載せることになる。消費税を上げる財務省の策略だと思うが、これが逆噴射し、国家債務破綻を招くきっかけになると私は思っている。アタリ氏のいう8つの解決策のうち日本がやったのは低金利だけで、あとはまったく手をつけていない。この15年間ひたすら現状維持してきただけだ。

しかし、アタリ氏は現状維持さえも「サバイバルへの強い決意」がなければできない、という。その通りだ。現に経済成長も外資導入も先進国では最低水準だ。大幅な歳出削減や増税は民主党のマニフェストのどこにもないし、自民党との違いは「ハコから人へ」バラマキ対象を移したにすぎない。つまり8つの方策の中では戦争かハイパーインフレしか残らない。つまり今までのやり方では日本は「手詰まってしまった」のだ。この簡単なロジックを政治家もマスコミも理解していない。

アタリ氏のいうように政治家は嫌われなくては国家債務の解決はできない。飲みやすい薬などないからだ。そのためには最低でも5年の任期がなければダメだ、という。当然だろう。日本の最大の問題は1年ごとに首相を代えて困難から目を背ける仕掛けを許容している現制度にある。

国家債務危機の解決はどうしたらよいのか、というアイデア募集をしている場合ではない。実は日本の政治制度そのものがこの問題の解決を困難にしている、という氏の指摘をわれわれは最も本質的な問題提起と捉えなくてはならない。