IT弱者・日本に残された選択肢
以上のように考えると、コロナショックによってわが国経済がDXという世界経済の構造変化にうまく対応できていないことが明らかになった。わが国はIT後進国というよりも、ITに弱いというべきだ。
株価はそうした見方が多いことを示している。3月末から9月末まで、GAFAMをはじめIT先端企業が多い米ナスダック総合指数は49%上昇した。同期間、わが国のTOPIXの上昇率は22%程度だ。その差は、アマゾンやグーグル、ZoomなどDXの推進役として期待される企業がわが国に見当たらないことだ。
わが国企業は、DXへの取り組みを強化し、変化に対応しなければならない。DXが進むにつれて、リアルな世界で行われていた経済活動はデジタル空間に吸い込まれていく。
映画業界では映画館からネット上のストリーミングを一段と重視し始めた。外食産業では巣ごもり需要を取り込むためにフードデリバリー事業を強化する事業者が増えている。製造の現場ではAI(人工知能)やロボットを用いた生産、設備の保守点検などが加速している。
その結果、自動車や機械など、労働集約型の産業を起点にして成長を実現してきたわが国経済では、在来分野で過剰人員が発生し雇用環境が不安定化する恐れがある。世界的に見ても、そうした懸念を抱く消費者が多い。
米国やわが国では中古車の販売が増えている。それは、接触を避けた移動手段を、できるだけ支出を抑えて確保する必要性が高まったからだ。世界的な貯蓄率の上昇にも消費者の不安が表れている。
経営者のアニマルスピリットが問われている
今後、冬場の感染拡大懸念などを考えると、居酒屋やレストランなどの需要は一段と落ち込む恐れがある。それだけではない。ワクチンが開発されたとしても、世界全体の需要構造がコロナ前に戻ることはないだろう。
わが国企業は積極的にDXへの取り組みを進めて消費者の満足感を高めなければならない。さらには、企業は従来にはない新しいモノやサービスなど“ヒット商品”の創造を目指して、イノベーション発揮に取り組まなければならない。
経営者がそうしたアニマルスピリットを組織全体に与え、高めることができるか否かが企業の変化への対応力と生き残りを左右するだろう。