ビール1杯で、「一本橋」が渡れない

では、アルコールが体に入ると、どの程度でライディングに支障をきたすのか? まずは、私の体験を紹介したいと思う。

10代の頃からバイク好きだった私は、50cc、125cc、250ccと乗り継ぎ、最終的にはGSX-R750というナナハンに乗っていた。

当時、大型バイクに乗るためには、限定解除(400ccまでの中型排気量限定免許を解除すること)という一発試験を受ける必要があった。その試験はかなり厳しく、合格率は非常に低かった。

そこで、大半の受験者は、試験を受ける前に独自に大型二輪の練習所で特訓を受けていたのだが、ある日、私が通っていた東京都内の某練習所で、「飲酒運転で一本橋」なる実験が行われたのだ。

ルールはこうだ。

まず、ビールをコップ1杯ずつ飲む。そして、いつも練習に使っている750ccのバイクにまたがって、練習場のコース内に設置された「一本橋」を渡る、というものだ。

一本橋とは、正式には『直線狭路コース』といい、幅30センチ、高さ5センチ、長さ15メートルの細い橋の上を、半クラッチを使いながら安定した状態で、脱輪せずに走行する課題だ。

大型二輪の場合、試験に合格するためには、この橋を10秒以上かけて渡ることが求められるのだが、すでに何時間も練習を積んできだわれわれにとって、この課題はそれほど難しいものではなく、すでに征服済みだった。

脱輪……平衡感覚は即座に狂わせられる

私自身、アルコールには強いほうで、かなりの量を飲んでも平気なタイプだ。それだけに、ビール1杯程度ではほとんど酔った感覚はなく、内心、『まず脱輪することなどないだろう』と、高をくくっていた。おそらく周囲の人たちも同じだっただろう。

ところが、いつものようにしっかりニーグリップ(膝でしっかりとタンクを抑えること)をして、慎重に渡っているはずなのに、半分も行かないうちにふらつき、結局、脱輪してしまったのだ。

私だけではない、このとき一緒に挑戦した練習生は皆、普段なら難なくクリアできる一本橋からバタバタと落ち、最後まで渡りきることができなかった。

「この程度なら影響はない」
「自分だけは絶対に大丈夫」

どれだけ練習を積んでいても、それは根拠のない自信に過ぎなかったのだ。

あのときばかりは、アルコールの恐ろしさを心底思い知った。わずか1杯のビールが、即座に平衡感覚を狂わせたのだ。