シェフも手が空けばトイレ掃除をする店
同期できると、こんなこともできます。19時半のお客様が2組いたら、お客様にご不便をおかけしない範囲で、料理を出すタイミングをそろえるんです。これができると、キッチンとしてはかなり助かります。
こんなこともできます。4名のテーブルのお客様に、4皿出さないといけない。一人のホールスタッフが2往復して料理を提供することもできますが、キッチンの人間が一人手伝えれば1往復で済むので、ホールに人がいない状態を避けることができる。
自分の仕事だけ終わらせればいいという考え方の人は、うちの店にはいません。
だからシェフの僕でも、手が空けばトイレ掃除をしたり、外出のついでがあれば買い物に行かされたりしています。「シェフお願いします!」と言われたら、喜んでこき使われる大バカなんです(笑)。
(4)手取り足取り教える
いわゆる徒弟制度のレストランは、背中を見て学べみたいな風潮がまだあります。そもそも教えなかったり、教え方が下手だったりするのに、失敗すれば叱って無意味なプレッシャーをかける。一人前になるまで10年くらいかかることもざらでした。
でも僕のレストランでは、サイゼリヤにならって、手取り足取り教えています。そうしたら、たった半年で一人前に育ってくれました。
こういうフラットでコミュニケーションが密なチームが、楽しいと思えたら成功です。きっとチームの力は爆上がりすると思います。
スタッフを苦しめた「完コピハラスメント」
このスタイルにたどり着くまでに、僕は相当苦労しました。
修行していた料亭やイタリアの三ツ星レストランなど一流の店のやり方を疑うことなく踏襲したので、キッチンはまさに村山王国。
うちのキッチンは狭くて、コンロの背後にはディッシュウォーマーがあります。料理の進み具合を見ながら、洗ったお皿を取り出して盛りつけなくちゃいけないんですが、コンロで料理をつくっている僕をよけてお皿を出さなければいけません。
そこで僕とぶつかると、「ジャマだよ!」と一喝し、焦ったスタッフがモタモタしていると、「おせーよ!」と、とどめの一言で刺す。そんな感じでした。
僕は僕の完コピ以外を許さずに、塩の置き場所を1センチずらしただけでも怒りました。かつて僕が一流レストランで自分がやったように、ルーティンを先回りして全部準備を整えとけと命じて、スタッフには自由度も裁量権も1ミリも持たせませんでした。
僕が伝説の三ツ星シェフ、ナディア・サンティーニと一体化して、表情から感情を読み取り、次に何をつくろうとしているのかを推測して行動していたのと同じことが、スタッフもできるだろうと思い込んでいたのです。