「エラーするかも」洩らした不安

日本代表は五輪前に合宿と壮行試合を行った。佐藤は合宿からレフトの守備についたが、驚くことの連続だった。

澤宮優『世紀の落球「戦犯」と呼ばれた男たちのその後』(中公新書ラクレ)

「これはやばいぞ。ライトとは予想よりも違うぞ」

右利きの佐藤は、レフトだと、左打者の切れる打球を逆シングルで捕ることになる。しかも捕球したあとは、体が二塁ベースとは反対方向を向くので、切り返す動きが入ってくる。

佐藤は壮行試合で、左打者の打球をトンネルして二塁打にしてしまった。

「思った以上に切れ方が大きかったですね。これは気を付けなければならないなと思いました」

そこに不運も重なった。合宿の初日にノックを受けたとき、佐藤は張り切って二塁へ全力で投げた。その際、肩に急激な痛みが走った。

「ビカンという感じの痛みが走りました。それまで感じたことのない激痛でした」

以後、送球の不安を抱えることになり、それは守備に対しての自信を失わせた。捕ったらすぐに投げて、送球の弱さをカバーしようと考えたが、それでは確実に捕ることに徹せない。

北京へ向かう飛行機の中で佐藤は村田修一(横浜ベイスターズ)に「自分はエラーするかもしれない」と不安を洩らしている。その不安が的中することになる。

焦りが捕球をおろそかにさせた

日本チームは予選リーグを4位で準決勝に進んだ。ここから試合形式は総当たりから、トーナメントに変わる。

準決勝の相手は、予選で負けた韓国である。佐藤は7番レフトでスタメン出場した。

日本が2点をリードした4回裏。先頭は左打者の李容圭。

李は先発・杉内俊哉(福岡ソフトバンクホークス)の球を流し打ち、レフト前に運ぶ。打球は大きく切れながらレフト線寄りに落ちた。佐藤はライン際に走ってゆく。肩が痛いので、捕ったらすぐに二塁に投げなければならない。その焦りが、捕球をおろそかにさせた。

ボールはツーバウンド目で、彼のグラブをかすめて左足に当たり、ファウルゾーンへ転がった。トンネルだった。

その間に李は悠々と二塁まで進んでいた。杉内はその後ヒットを打たれ、次打者の内野ゴロの間に1点を失った。2対1となった。

「自分でも“何これ、なんで捕れないの”と思いました。わけがわからなくなって、トンネルした自分を疑い出してしまって。“どうしたんだろう今日は”と思うようになり、こんなゴロも捕れないのだから、とフライを捕る自信も失ってしまったんです」