「どうせならホームランになってくれ」
日本代表は追加点を奪えないまま、7回裏に同点に追いつかれた。
そして8回裏、李承燁に2ランを打たれ、ついに勝ち越される。なおも二死一塁で、バッターボックスには7番高永民。
涌井秀章(埼玉西武ライオンズ)の速球を思い切りスイングすると、打球は左中間の深い場所に飛んだ。レフトの佐藤とセンターの青木宣親(東京ヤクルトスワローズ)がともに追いかける。
4回にトンネルをして弱気になっていた佐藤は「青木、捕ってくれ」と思ったが、佐藤のほうが先に打球に追いついた。フェンスにぶつかりながら捕球しようとしたが、ボールはグラブからこぼれてセンターへ転がった。
青木がすぐに拾って返球したものの、一塁走者は三塁を回ってホームインした。佐藤は膝をついてしばらく立つことができなかった。
「難しい打球でしたが、グラブに触っているので捕れた当たりだと思います。ただ飛んで来たときには、どうせならホームランになってくれとも思いました。青木に捕ってくれと考えているようじゃ駄目ですよね。自信がなかったんですね」
阿部慎之助に抱きかかえられてバスに乗った
これで韓国にダメ押しの5点目が入った。佐藤はベンチに戻るのが怖かったという。
最終回の日本の攻撃時も佐藤はベンチの隅にうなだれて座っているだけだった。誰も声をかける者はいなかった。
韓国に敗れた日本は金メダルの可能性が消え、3位決定戦に回ることになった。試合後、佐藤は涙が止まらず、阿部慎之助(読売ジャイアンツ)に抱きかかえられてバスに乗るのがやっとだった。
その夜、森野将彦(中日ドラゴンズ)と阿部が食事に誘ってくれた。二人で「負けたのはお前だけのせいじゃない。気にするな。明日勝って銅メダルを獲ろう」と励ましてくれた。しかし佐藤は、明日は自分の出番はないと考えた。
「金メダルが目標でしたからね。自分のエラーで負けたので気持ちが切れてしまったんです。二度エラーした私を星野監督が翌日も使うわけはないと思い込んでいました」
ところが翌日、彼にとって予想外の出来事が待っていた。