内容はともかく、報道のタイミングが絶妙だった

週刊誌の持ち味は噂の段階から記事にすることである。記事にするかどうかの判断は、真偽よりも面白いかどうかを優先する。

これは、ウソを書いたり、捏造したりするということではない。今すぐに裏は取れないが、話してくれた人物への信頼性、その情報が信じるに足り得るかどうかを吟味し、やれるとなれば躊躇しないということである。

FLASHは、「“死に体”安倍内閣を追撃……永田町に広まる『首相吐血』情報」とタイトルを打ち、こう書き出している。

「《安倍総理が、7月6日に首相執務室で吐血した――》
いま、永田町をこんな情報が走っている。安倍晋三首相(65)の体調は、いったいどうなっているのか」

情報が走っているだけで、週刊誌お得意の永田町関係者や官邸筋の話も何もない。一見、週刊誌とはいえ、あまりにも裏付けのない与太話に思える。

だが、発売の時期が絶妙なのである。ほとんどの週刊誌が夏休みの合併号で、週刊文春、週刊新潮も発売はFLASHの2日後だから、この情報については1行も触れられていない。

安倍首相吐血情報は、どこも追いかけるところもなく、静かに広がっていったのである。

今はネットの時代だから、紙で出さなくてもオンライン版でやるところもあるのではないか。そう考えて、文春オンライン、デイリー新潮、Newsポストセブンを覗いてみたが、私が見た限りではどこもやっていなかった。

甘利氏の「休んでもらいたい」発言の後、病院へ

リークした人間がFLASHという媒体を選んだのも、掲載された時期も“絶妙”だったと、私は考える。

一国のリーダーの健康問題は、特定秘密保護法に指定されてもおかしくない最重要機密である。知る人間は限られている。リークしたことがバレれば、無事では済まないかもしれない。慎重に考えた末、出ても大きな騒動にならない媒体を選んだのではないか。

では、リークした側の意図はなにか? それは後で触れるとして、報道後の動きを見ていこう。

FLASHの「吐血報道」について会見で質問された菅義偉官房長官は、「私は連日お会いしているが、淡々と職務に専念をしている。まったく問題ないと思っている」と回答した。だが、記事については否定も、FLASH側に抗議するともいわなかった。

さらに8月16日、安倍の側近である甘利明税制調査会長が『日曜報道 THE PRIME』(フジテレビ)に出演して、「(安倍首相に=筆者注)ちょっと休んでもらいたい。責任感が強く、自分が休むことは罪だとの意識まで持っている」「数日でもいいから強制的に休ませなければならない」と発言した。

他の自民党議員からも、安倍の体調を心配する声が出てきた。

そして8月17日、突然、安倍は定期検査だとして、主治医のいる慶應大学病院に入ったから、騒ぎはさらに大きくなった。半年に1回は診てもらっているというが、前回は6月。わずか2カ月での検診が吐血情報にさらなる信憑性を与えたのである。