銀行などの金利が低いのは分かっているが……

山下さんの金融資産は約3800万円で、すべて銀行や郵便局の預貯金のみ。山下さんは、これまで一度も投資をしたことがない。60歳の定年時に受け取った約2000万円の退職一時金も、住宅ローンを完済して、残りは定期預金にした。

定年直後などは、銀行や証券会社などから、ずいぶん電話がかかってきて、退職者向けの有利な商品を勧められたが、すべて断ったという。

「担当者さんが、パンフレットや専用プランを持参して、熱心に説明してくださったんですが、どうも、カモにされるんじゃないかと警戒心ばかりが強くなって……」と山下さんは言う。それに、彼らの説明する内容や用語がさっぱり理解できなかったそうだ。

「銀行などの金利が低いのは分かっています。でも、慣れないことはするものではない、安全確実が一番だと思って、これまで預貯金一筋で何とかやってきました。金利がとてもいい時代もありましたしね。でも、これからは、収入が限られていますし、何歳まで長生きするかどうか分からない。同年代でも、数年前から投資を始めたという友人が少なくありません。今からでも、投資をした方が良いのか、やめておくべきか。せっかくのまとまったお金があるのに、金利がつかない口座に入れっぱなしにしておくのは損なような気がして。かといって、何をどう始めれば良いのかも分からず。最近、投資や資産運用のことばかり考えています」

資産運用をしておけば良かったと考える人は約4割

定年後、山下さんのような悩みを抱える人は少なくないようだ。

高齢者の就労支援を行う株式会社マイスター60が、定年退職後に再雇用制度を使って働いている60~65歳の全国の男性500名を対象にアンケート調査を実施したところ、定年退職前にしておけばよかったことして最も多かったのは「資産運用」(38.4%)だった。

筆者として、この結果は意外というか予想外。次点以下の「健康/体力維持改善」や「趣味づくり」、「人脈の構築」などの方がもっと高順位になりそうである。

ただ、同社が実施した調査(第1弾)では、再雇用制度で給与が現役時の半額以下に減額したと回答した人が約4割にものぼっている。そのため、お金への不安が強まり、その解決方法として資産運用をやっておけば良かったと感じている人が多いのかもしれない(図表1)。