今更自制を求めても中国にとってはただの雑音
一方で、数字を見る限り日本の対中姿勢が厳しかろうと融和的であろうと、尖閣にやってくる中国公船の隻数に変化はない、ともいえる。
連続111日にわたった中国船の侵入は8月3日に途切れたが、これは台風の影響ではないかといわれており、外交的圧力が奏功したわけではなさそうだ。7月29日に茂木外相が中国の王毅外相と電話で会談し、尖閣周辺での中国公船の動きとその常態化に対して自制を求めたというが、そのこととの関連を指摘する報道はない。日中外相の電話会談は4月21日以来と報じられているが、遅すぎるのではないだろうか。
常態化がすっかり定着した後になって自制を求めているようでは、この程度の抗議など中国にとっては蚊の鳴く音にも及ばない程度の雑音でしかないだろう。
毎年8月の禁漁解禁直後に中国漁船と、それを監視するという名目での中国公船の“襲来”が増えた事例はこれまでにもあった。だが、こうした現状を前に、「政府は何をやっているんだ」との国民のフラストレーションは高まっている。インドネシアがかつて自国の排他的経済水域内で違法操業していた中国漁船を「爆破」「水没」させたことをもって、「日本も中国漁船を撃沈すべきだ」との声すら上がる現状だ。政府の不作為が招いた不満だが、一方でこうした強硬論も行き過ぎれば害になりかねない。
中国の“海上民兵”という存在
そもそも、インドネシアは操業中の漁船に攻撃を加えて撃沈したわけではない。インドネシアは自国の排他的経済水域内で違法操業を行った中国を含む各国の漁船を拿捕し、司法に基づいて船を差し押さえ、最終的に爆破処分・水没処分を行ったものだ。こうした処分を行ったインドネシアのスシ海洋水産大臣はネット上で「女ゴルゴ」「女傑」などと評価され、その強硬姿勢を見習うべきだとの書き込みも散見されるが、こうした「強硬論」がかえって中国を利する面もあることは踏まえておく必要がある。
中国は「海洋強国」となるべく、着々と海軍力を増強するとともに、軍の力によらない組織を使ってこの目標を達成するための下地をも整えてきた。それが海上民兵の存在だ。
米海軍大学中国海事研究所が海上民兵の実態について詳述した『中国の海洋強国戦略――グレーゾーン作戦と展開』によれば、海上民兵は中国海軍に組み入れられた「海上産業労働者」であり、日常の業務(漁業)をこなしながら、一方で適切な訓練と装備を与えられ、海軍の指示によって海上の監視、偵察能力を補完し、通信や補給の支援、さらには外国の民間船や軍艦に対するいやがらせといった幅広い任務を行うという。
しかも、一見、トロール漁船を操業する民間人であるために、時には中国海軍や中国海警よりも挑発的な任務を実行することも可能だとしている。