「Go To トラベル」開始をめぐる経緯

7月29日に国会の閉会中審査に呼ばれた尾身会長は、爆弾発言をする。

「(Go To トラベルの開始を)根拠を持った説明ができる必要があると思ったので、もう少し判断を延ばしたらどうですかというふうに申し上げたけども、一応政府はそのことについては我々の提言は採用しないと」

つまり、開始判断を先延ばしするよう提言したのに、政府が受け入れなかった、としたのだ。ここで尾身氏が「提言」と言っているのは分科会としての正式な提言ではないようだ。7月16日の分科会に先立って、尾身会長が西村担当相に話した、ということらしい。

西村担当相は国会答弁でこう答えている。

「20日ごろまでの時間があれば、より詳しい分析ができるというお話を(尾身会長から)頂いた。政府全体で22日からGo To トラベルを始める方針でありましたので、まさに直前になるので、さまざまな混乱が生じるのではないか」

つまり、20日では混乱するので、16日の分科会で決定してもらったと明かしたのだ。

そんな「過去の経緯」があったから、お盆の帰省に関して尾身会長が事前に会見し、政治に釘を刺した、というわけだ。

尾身会長の「霞ヶ関官僚」の経験は長い

だが、尾身会長の行動にも疑問を呈する向きがある。

7月16日より前に「判断」を先延ばししてはどうかと西村担当相に「提案」した内容について、分科会では正式に議論されていない。分科会のメンバーの中には、「Go To トラベル」キャンペーン自体を延期すべきだという意見を持っていて会議で発言しようとしていた人もいた。ところが尾身会長は西村担当相と事前に「手打ち」をして16日の会議ではまともな議論は行われなかった。

尾身会長については、WHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局長の経歴がことさら強調されるが、厚生省(現・厚生労働省)の医系技官として長年勤務してきた霞が関官僚の経験が長い。官邸の意向を受け入れる一方で、自らの責任や背後にいる厚労省の責任は追及されないよう動いているのではないか、という指摘もあるのだ。

8月5日の緊急会見での「提言」をそういう視点で見ると、気が付くことがある。「次回の分科会の開催を待たず、政府に対して帰省に関する提言をすることが責任、役割だと思った」と発言しているが、なぜ、分科会を前倒しで開かず、「提言」することが「役割」なのか。分科会を開けば、「帰省は自粛するよう求めるべきだ」という強硬な意見が出ることは明らかだった。