「専門家の意見を聞いた上で判断したい」の無責任
「専門家の意見を聞いた上で判断したい」――。連日記者会見を開いて新型コロナウイルス対策について語っている西村康稔経済再生担当大臣は、何度このフレーズを繰り返しただろうか。
「Go To トラベル」の前倒し実施に踏み切った時も、8月1日に予定されていたイベント開催制限の緩和を見送った時も、そう語っていた。判断はあくまで専門家の意見に従った結果で、政治が勝手に決めたわけではない、と言いたいのだろう。要は責任逃れに終始しているのだ。
お盆休みの帰省シーズンが目前に迫っているが、国民はどう行動すれば良いのか。西村担当相は、またしても「専門家任せ」に動いていた。帰省が本格化する前の8月7日までに政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を開いて意見を聞くとしていたのだ。
ところが、8月5日の夕方、分科会の尾身茂会長が臨時の記者会見を開催。「お盆休みが近づく中、次回の分科会の開催を待たず、政府に対して帰省に関する提言をすることが責任、役割だと思った」とし、政府への提言内容を公表したのだ。
分科会は「お墨付き」のために利用されている
尾身会長がフライングとも取れる行動に出た背景には、分科会に責任を押し付ける政治家の対応に苛立ったためだとも言われる。「Go To トラベル」の実施と東京の除外を決めた7月16日、政府は分科会を開催した。専門家から意見を聞いた上で正式決定する、はずだった。
ところが、すでに「東京発着を除外して22日から実施」という方針をメディアが一斉に報道。分科会のメンバーである小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹がテレビ番組などで明かしたところによれば、分科会の開催前に事務方からは何の説明もなく、分科会は東京除外を追認するだけの場だった、という。要は、「専門家の意見を聞いて」というのは建前で、官邸が決めたことに「お墨付き」を与えることに利用されたというわけだ。
新型コロナの感染者数が再び増加する中で、感染拡大を防ぐためにテレワークの推進などを求める一方で、人の動きを加速する「Go To トラベル」を前倒し実施するという「矛盾」した政府の姿勢に、国民からは強い批判の声が上がったのはご存知の通りだ。