なぜヒアリは私たちをパニックに陥れるのか?

殺傷能力という点では、ヒアリよりもスズメバチのほうが圧倒的に怖い。では、なぜ、ヒアリの出現が日本中をパニックに陥れるのだろうか?

一番の理由は、ヒアリが毒針を持ち、人を刺すことである。刺されると焼けるような激しい痛みやかゆみを感じ、腫れがあり、刺された皮膚は赤く膿むことがある。そのため、雑菌の感染を防ぐ処置が必要とされる。症状は個人によって異なるため、正しく恐れることが大事である(*2)

最も恐ろしいのは、蜂に刺されたときと同様、「アナフィラキシーショック(強いアレルギー反応)」を引き起こし、時に「死に至る」ことである。

刺されたあと30分ほどは十分な注意が必要である。動悸、息切れ、めまいなどの症状があるときには早急に病院に行く必要がある。場合によっては呼吸困難、血圧低下や意識を失うこともある(*2)

日本人の「アリ幻想」を根底から覆した

ヒアリが日本人をパニックに陥れた別の理由として、日本人が持つ、「アリは働き者で、勤勉で偉い」という“信仰”(というか“イメージ”)が根底から覆されたことによるショックもあると考えられる。

海外での調査より、ヒアリは人家の庭や公園、学校の校庭などに好んで住み着くとされている。もしヒアリが、現在確認されている港湾地域だけでなく、住宅地域に分布を広げると、公園や庭でシートを広げ、お弁当を食べるという日常が危険と隣り合わせになってしまう。

アリの多くは、1つの巣に女王アリが1匹いて、姉妹である働きアリが女王の産卵を助ける。ところがヒアリの1つの巣には、複数の女王がいる。そのため繁殖能力が高いと考えられる。

ヒアリの場合、巣が作られてから7カ月ほど経過すると、翅を持つ新しい女王とオスが現れ、夏季に新しい繁殖地を求めて母巣から2キロ以上も分布範囲を広げて、新しい巣を作るといわれている(*2)。ヒアリは、まさに「いま」勢力範囲を大きく拡大している最中である。一度営巣を許せば、彼らは確実に定着し、毎年分布を広げ、私たちの日常に近づいてくる。

ヒアリの駆除が追い付かなくなるのは、すでにいくつかの州でヒアリの蔓延した米国の例からも明らかである。侵入を防げず、定着を許してヒアリが蔓延した場合、街中で危険生物の未侵入ゾーンを作ることすら考えなくてはならないだろう。