ヒアリが冬を越す可能性も十分

侵入したヒアリを駆除しきれず見逃した場合、日本で冬を越せるか? という疑問も湧く。寒い冬の間に死滅してくれるのではないか、という期待だ。

ところが残念なことに、研究者の計算によるとヒアリの生息可能な北限は、米国ではワシントンからオレゴンの緯度と推定されている(*4)。日本では、関東地方までヒアリが生息可能ということになる。

地球温暖化によって、越冬可能な地域が北上している生物も多い。カメムシなどの農業害虫もしかりである。昔なら冬を越せないような熱帯性の魚が本州の河川で定着しているというニュースも聞く。

とにかく侵入を防ぐしかないわけだ。しかし、ヒアリたちはコンテナに潜んで次から次へと日本への侵入を試みている。見つけるたびに徹底的に駆除を試みる。こうしてヒアリと人間のいたちごっこが続く。

結局のところ、地球温暖化、人や物資の移動のグローバル化が私たちの生活を根底から覆す事態を招いているわけだ。新型コロナウイルスの急速な世界的拡散もまた、人類の物理的な交流がもたらした事態だった。

森林
写真=iStock.com/martinedoucet
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ヒアリによる経済的損失は億単位

ヒアリは経済への被害も深刻である。

アメリカでは、ヒアリによる経済コストは毎年6000億円と算出されている。また、防除には殺虫剤の散布と、巣に持ち帰らせる毒餌が使用されるが、中国の広東省では年間150億円以上の予算が防除に使われている。オーストラリアでは年間30億円、台湾やニュージーランドでも1億円を超える。

日本では、国が旗を振って、港湾地区での初期侵入コロニーの探索と、侵入したヒアリの封じ込め作戦が大々的に展開されているのはご存じのとおりである。

逐一コンテナ等をチェックし、発見したら駆除し……ということを繰り返す様は、ニュースで見る限りでは徒労に近いことをやっているように感じられるかもしれない。しかし、愚直に駆除を繰り返す以外に方法がない。

一度侵入されたら、上記のようなコストがかかると知ってみれば、港湾関係者に感謝の気持ちが起きてくるだろう。