水際のせめぎ合いが続くヒアリ問題

警戒しなければならない外来昆虫は数多い。その中でも、私たちの日常生活をガラリと変えてしまう可能性のあるヒアリは、重大な関心事だ。

2020年7月14日、東京湾大井埠頭で約1500匹が見つかった。6月にも、11日に横浜港で約300匹、19日に東京都青海埠頭で200匹以上、24日に川崎市の倉庫で数百匹、千葉港で1000匹以上が相次いで発見されている。このうち横浜、千葉、川崎では女王アリも見つかっている(*1)。いずれも中国から船で輸入された積み荷からの発見である。

日本に初めてヒアリが侵入したのは2017年5月、神戸港だった。それ以来、愛知、大阪、神奈川、埼玉、岡山などの港や搬入された梱包資材から、毎夏、次々とヒアリは発見されメディアを騒がせるようになった。発見事例はこれまでに16都道府県、50事例以上になる。

中でも2019年12月の東京湾では、営巣していたと考えられるヒアリの大きな巣が発見され、翅を持つ女王も数十匹見つかっていたことは警戒に値する。アリの専門家の推測によると、これらの女王が周囲に分散していた可能性が高いのだという(*2)

火災アント巣
写真=iStock.com/douglascraig
※写真はイメージです

大陸間を移動して侵入を繰り返すヒアリ

もともと南米に生息していたヒアリは、1939年にアメリカ合衆国南部に侵入し、初めて外来種となった。テキサスに達したヒアリは、2001年にオーストラリア、2004年には中国に侵入した。船に積まれたコンテナに紛れたヒアリが大陸間を移動したのだ。

一連の侵入経路の推定は、世界の75地域より2144ものヒアリのコロニーから採集したアリのDNA解析結果に基づいている(*3)

さらに、アメリカ南部からカリフォルニアを経由して台湾に侵入したのが2003年である。ヒアリが台湾に定着したことにより、日本のアリ研究者は南西諸島へのヒアリの侵入を警戒していた。冬季も温暖な沖縄県の都市部では定着する可能性が高いと考えられたためだ。

ところが、大方の予想を裏切って、2017年にいきなり神戸港にヒアリは現れた。やはり中国の船舶に積載されたコンテナから見つかった。