「フリーランチ」は存在しない
FRBの使命は「雇用の最大化」と「インフレ率の抑制」だ。債券の買い入れによる経済の安定化ではないことは言わずもがなである。したがって、FRBが今回採用した政策への批判が高まるのは必至であり、FRBも買い入れる社債を選別せざるを得なくなる。
そのとき、結果的に企業債務が拡大し、債務不履行による倒産ラッシュが起きることになる。多くの投資家が、不良債権をFRBがすべて引き受けるのは不可能であると思い知らされることになるのだが、そんなことは初めからわかり切っている。
そのとき投資家は「FRBが社債を買うと言ったじゃないか」と批判するだろう。しかし、そもそもフリーランチは存在しない。投資家が無知だったということになるだけだ。
「現金がゴミになる」
経営者や金融機関、投資家だけがさんざん儲けておいて、その後のツケを国民が引き受けるというバカげたことはあってはならない。金融機関や大手企業は、「政府に守られていると考えるのは、最終的に大きな勘違いだった」と思い知らされるタイミングが来るだろう。
今後の低成長時代に、実体経済や企業の実力に見合わないような株価水準に上がることもなくなっていく。資金供給の拡大で、株価が人為的に押し上げられるような経済が、永遠に続くと考えるには無理がある。
さらには、政府・中銀による野放図な資金供給が行われることで、今後は通貨が下落する可能性がある。いや、もっとはっきり言えば、「現金がゴミになる」という世界が来るかもしれない。デジタル化の加速で、そのような状況がいずれ鮮明になっていくだろう。
米ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で2020年4月20日、国際的な原油取引の指標WTIの5月の先物価格が1バレルあたりマイナス37.63ドルと、史上初めてマイナスを記録した。原油価格がマイナスになるという“考えられないこと”が起こったのである。これからは何があっても驚いてはならない。
人口動態の問題も、今後は重要なポイントになる。少子高齢化は経済の縮小均衡を意味する。「人・モノ・カネ」の流れが止まれば、デフレになる。現金が力を持つ世界になるということでもあるから、デフレであるうちはまだましかもしれない。しかし、その現金の価値が、デジタル化の加速の中で低下していったとしたらどうか。