外国人を受け入れて「重ねる革命」を

【小林】ベルリンにも、いろいろな国から逃げてきた人がたくさんいます。あるいは日本にも移住者コミュニティは意外と多いですよね。先日、ドイツであるクルド人の方から伺ったのですが、今は埼玉県の(わらび)にクルド人が集まっているそうです。調べてみたら、世界中のクルド人コミュニティの中でも、蕨はかなり巨大らしい。「ワラビスタン」と呼ぶそうです。そんな彼らは祖国を追われて逃げざるを得なかったという面もありますが。

こういう動きを、僕は「重ねる革命」と呼んでいます。何かを打倒したり、追い出したりする革命ではなく、さまざまな立場の人が、それぞれに居心地のよさを求めて現状を変えていく。それが何層にも重なると、やがて大きな変革につながるというイメージです。

【尾原】日本ほど逃げ先として安心・安全な場所はないですからね。今のところ、正式に移民を受け入れているわけではありませんが、何か仕組みを作って世界中の方々の逃げ先になればいいなと思います。そうすると、日本人は海外に行かなくても、いろいろな文化を知ることができるし。

撮影=小野田陽一
インフォバーン共同創業者・代表取締役CVOの小林弘人氏

【小林】よく、「日本は平和ですばらしい」と自賛する声をよく聞きます。そんなにすばらしいなら、世界に輸出すればいいのにと思うときがあります。平和の輸出とは何かといえば、戦争難民や圧政からの亡命者を受け入れることです。

実際、バングラデシュに逃げているロヒンギャ難民とか、香港の若い人たちとか、日本に来たがっている方は世界中にいます。ただし、みんな断念または躊躇するのは、日本で英語が通じないこと。それなら、日本国内に英語を公用語とする人たちの 場所を作ればいいんじゃないかと思います。

「言葉の壁」は、むしろ嬉しいもの

【尾原】英語については、日本人も苦手意識を持つ方が多いですよね。だから外国人との間に“言葉の壁”があると思い込んでいる。でも、それはちょっと違うと思うんです。

尾原 和啓『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)

例えば、エアビーアンドビーで外国人にダントツの人気を誇る神戸市の民家があります。その家の最大の売りは、お母さんの手料理。味噌汁や肉じゃがとか、ごく一般的な日本家庭のごはんを食べたいというニーズは、ものすごく高いんです。

ところが、そのお母さんは日本語しか話せない。でも、どんな国からゲストが来ても何ら問題はありません。「グーグル翻訳」のアプリでなんとかなるから(笑)。むしろ、お母さんが慣れないアプリを使って一生懸命に会話しようとする姿そのものが、ゲストにとっては嬉しいんです。

【小林】なるほど、面白いですね。しかも完全ではないからこそ、その摩擦からある種の“熱気”が生まれる。

【尾原】そうそう。僕自身、ふだん外国人によく道を聞かれますが、英語であっさり答えるとがっかりされたりします。その昔、まだ英語が下手だったころにカタコトで一生懸命説明したときのほうが、かえって喜ばれた覚えがある。そういうシドロモドロなコミュニケーションのほうが、旅の思い出になるからでしょう。それは、僕たちが海外に行ったときのことを考えてもわかりますよね。

だから、流暢に英語を話せないことに引け目を感じる必要はないんですよ。アプリもあるし、カタコトでもいい。旅を楽しみたい人にとって、“適切な善意ある摩擦”は思い出になるからむしろ嬉しいんです。