日本人は「日常を楽しんではいけない」と考えがちだ。だから起業家イベントは静かに進行する。だが、海外では祭りのような騒ぎで、みんなで楽しもうという意識が強い。なぜこうした差があるのか。『After GAFA』(KADOKAWA)と『アルゴリズムフェアネス』(KADOKAWA)の出版を記念し、インフォバーン共同創業者の小林弘人氏とIT批評家の尾原和啓氏が対談した――。(第3回/全4回)

※当対談は2020年3月4日に実施しました。

日本企業は“思想性”をアピールすれば世界に参戦できる

IT批評家、実業家の尾原和啓氏
撮影=小野田陽一
IT批評家、実業家の尾原和啓氏

【尾原和啓(IT批評家)】米欧の国家や企業が思想戦争、アルゴリズム競争を繰り広げる中、日本は国家も企業も存在感が薄いですよね。技術はアピールしますが、その裏側にあるはずの「倫理」や「審美性」を提示するのは苦手。これはなぜなんでしょうね。

【小林弘人(インフォバーン共同創業者)】そうですね。例えばアムステルダムに、ミータブルというベンチャー企業があります。試験管で培養肉を作っているのですが、動物を殺さずに食肉を得られるとして世界中から投資を集めています。でも、同社が使っている技術は日本の山中伸弥先生が開発したiPS細胞を応用しているといいます。

日本のフードテック界隈には、優れた技術を持つ企業が多数あります。それに和食文化の人気もあって、「UMAMI」という日本語がそのまま世界で通じます。しかも英語になると、「うまみ」よりもっと科学的な分析も包含されます。ならば日本から世界を席巻する企業が現れてもいいはずですが、そうはなっていません。

理由はいろいろあるでしょうが、どうしてもドメスティックに考えてしまうことが1つ。世界の食品産業は自動車産業の何倍ものマーケットなので、もう少し視野を広げて考えてもいいという気がします。そのような人材が増えることに期待します。

それから見せ方の問題。技術だけではなく、仰るとおり思想性までアピールできれば十分に世界に参戦できると思いますけどね。

【尾原】それはアップルがiPhoneを売り出したときと同じですね。液晶もタッチパネルもバッテリーも、要素技術は日本企業が持っていた。ところがスティーブ・ジョブズがああいう形で製品パッケージ化して、しかも新しいテクノロジーとしてではなく、自分を表現できる装置作品として売り出した。つまり機能ではなく意味をアピールすることで、世界を席巻したわけです。