ディスラプションする覚悟が足りない

【小林】日本ではレイヤー(階層)が変わって、文字どおり地下に潜る感じですよね。

1つ考えられるのは、そもそもカウンターカルチャーは、いろんなマイノリティから主流文化に対してのアンチテーゼによってもたらされます。しかし、そのマイノリティが主流に反発する前に、同調圧力が強すぎて、先にあきらめてしまうのではないでしょうか。引きこもってしまうわけです。

それから主流文化の側にせよ、尾原さんの表現を借りるなら、日本はアメリカのアルゴリズムにいい感じに乗っていた。最近流行の哲学者マルクス・ガブリエルも「日米はテクノロジー万能主義なところがそっくり」と言っています。理由はわかりませんけどね。

つまり根っこの部分で共有できているから、表立ってカウンターを食らわそうという動きに広がらないのかもしれません。

イノベーションも、本来は企業内のカウンターカルチャーです。しかし、そこにはディスラプション(創造的破壊)まで行うという覚悟が足りない。例えば、何か画期的な技術を導入することで、ある業界が潰れるかもしれないとします。そのとき、「本当に潰すつもりなのか」と問い詰めると、「うちの会社はそこまで考えていない」と腰砕けになる。それは美徳でもありますが、調和を重視する社会なので、根回しして調整しながらやっていくほうが成功しやすいのでしょう。

“エピキュリアン魂”を取り戻せ

【小林】もともと日本人はエピキュリアン(快楽主義者)だったと思います。誤解のある言葉ですが、本来の意味は刹那的な快楽よりも、心の平安を求める態度ですね。だから、ないものねだりでオシャレなコワーキングスペースとか、本当は必要ない。例えばビジネスカンファレンスをどこかのひなびた温泉地で開いてもいいんじゃないですか。

小林 弘人『After GAFA』(KADOKAWA)
小林弘人『After GAFA』(KADOKAWA)

ヘルシンキで開かれているヨーロッパ最大級の投資家・起業家マッチングイベント「スラッシュ」などは、そのいい手本になると思います。参加者は世界中から2万人以上。毎年寒い時期に厳寒の地で開かれるのですが、これは逆に外出できないので、引きこもってじっくり話すしかない。これは現状肯定を武器にした、快楽主義的な戦い方です。

【尾原】スタートアップイベントなのに、レーザー光線をバンバン光らせて、本当にお祭り騒ぎになりますよね。

【小林】垂れ幕には「こんな時期にここに来るヤツはbadassだ」と。スラングで「かっこいいぜ」というニュアンスですが、日本でもしこんな垂れ幕を出したら、きっと大問題になる(笑)。

【尾原】「スラッシュ」自体は、ガンホー創業者の孫泰蔵さんが日本に持ち込んで、2015年から「スラッシュアジア」(後に「スラッシュトウキョウ」)が開かれています。今は20代前半の若い方々が運営の中心になり、「BARKATION」という名前に変更して行われているようです。こういうイベントがきっかけになって、日本人のエピキュリアンぶりが掘り起こされたらいいですよね。

(構成=島田栄昭 撮影=小野田陽一)
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