実際に失業率と「経済・生活問題が理由の自殺者数」の推移を確認してみよう。わが国が金融危機に陥った2003年の失業率は5.3%まで上昇したが、同年の前記の理由による自殺者数は8897人まで増加した。また、リーマンショック後の2009年の失業率は5.1%、同じく前記の理由による自殺者数は8377人に達した。

2019年時点では、失業率は2.4%、前記の理由による自殺者数は3395人と、状況は大幅に好転していた。大和総研の試算によると、もし雇用対策などが全く講じられなければ、感染症の収束が2021年以降にずれ込む「長期化シナリオ」においては、雇用者数の減少幅は300万人、失業率は6.7%に達する可能性がある。この場合、前述の失業率と自殺者数の関係を単純に当てはめると、8000人近い自殺者が出る計算となる。身の毛もよだつような、恐ろしい数字だ。

経済の急激な縮小が国民の尊い生命が奪う

結論として、感染症の拡大から国民の生命を守ることは重要だが、感染症の拡大防止を目的とした休業要請などを背景に経済の急激な縮小が続くと、自殺者の増加によって、また違う角度から国民の尊い生命が奪われることもあり得る。その点も、われわれは肝に銘じるべきだろう。

熊谷亮丸著『ポストコロナの経済学 8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?』(日経BP)

感染拡大の防止と社会・経済活動のバランスを取る意味では、新型コロナウイルスで亡くなられる方と、経済苦で自殺される方を、トータルでみた時に最小化するという視点が極めて重要だ。すなわち、日本政府に求められるのは、感染症の専門家と経済の専門家の意見を総合的に調整する能力に他ならない。

具体的には、重症化のリスクが高い方々や高齢者などに対して重点的に高度医療を提供することが可能で、「医療崩壊」のリスクがないことが、経済活動再開の大前提となる。科学的根拠に基づき、緊急性の高い患者を優先的に処置する、いわゆる「トリアージ(治療の優先度決め)」という発想がカギだ。最終的に、日本政府は、感染状況(入院患者数、死亡者数等)、医療供給体制(病院の空きベット率等)、監視体制(人口当たりの検査実施数、感染症経路追跡のための職員確保状況等)などを踏まえて、経済活動正常化のペースを総合的に判断するべきであろう。

もし感染症の拡大防止や、医療崩壊の阻止に向けたほんのわずかな歳出増を行うことで緊急事態宣言を回避できれば、「仮に緊急事態宣言が全国で1年間実施されると、個人消費が約54兆円減少する」というような壊滅的な打撃を阻止できる。日本政府には、くれぐれも「費用対効果」を冷静に見極めた上で、「感染症へのレジリエンスがある(耐性の高い)社会」の構築に向けて、適切な政策対応を行って欲しい。

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