コロナ禍に続き、まさかのがん(ステージⅢ期)の告知を受ける

コロナによる影響をモロに受けたAさんだったが、災難はこれだけではなかった。

5月中旬に、緊急事態宣言の実施地域が限定され、下旬には、全国的に解除されるのでは、という雰囲気が濃厚になってきた頃、ようやく再就職に向けて就活を再開できると張り切っていたAさんに大腸がんが見つかったのだ。

「これまで自覚症状などはまったくありません。ただ、ここ数カ月、下痢や便秘が続いていて、体調はよいとはいえませんでした。でも、コロナで外出自粛するようになってから、お酒の量が増えたり、生活が不規則になったり。再就職もうまくいかないしでストレスがたまっているんだろうなと。本来なら、もっと早く病院に行っていたかもしれませんが、コロナに感染するのが怖くて。便に血が混じっているのをみて、さすがにこれはマズいんじゃないかと、受診したんです」

精密検査の結果、ステージはⅢ期。Aさんは、すぐに入院して、がん摘出の手術を受けた。退院後は、半年間の抗がん剤治療を受ける予定だという。

話の途中で、Aさんは、「数カ月前まで、まさか、こんなことになるとは思いませんでした」と、何度も口にしながら、ため息をついた。今回のコロナ禍で、どれだけ多くの人がこの言葉を口にしただろう。

「こんなことになって(がん告知を受けて)も、働く気力や体力は十分にあるつもりです。実は、離婚した時に、住んでいたマンションは前妻に渡し、新たに住宅ローンを組んで分譲マンションを購入したんです。残債は1000万円以上あり、返済期間は70歳までです(約20年のローン)。今年3月に会社を辞めたとき、70歳までの約10年間は、転職してこれまでと同じような収入を見込めると思っていたので、退職金はローン返済に充当せずに、そのまま投資に回しました。でも、もし、再就職がうまくいかず収入がなくなれば、ローン返済計画は完全に狂い、生活は確実に苦しくなります。それに、そんなに長生きできないなら、公的年金も繰り上げ受給したほうが良いのかと考えたりもして……」

離婚とコロナ禍を経ての「無職(転職先見つからず)・多額のローン・がんⅢ期」という三重苦に見舞われたAさんはこれからのことを考えると心が暗くなるという。

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老後生活は、まず予定通りにいかないものと覚悟しておく

Aさんの事例は、コロナ禍の影響や病気の発症などが、タイミング悪く重なってしまったケースとも言える。しかし、筆者がファイナンシャル・プランナーとして相談を受けている限り、不運・不幸な状況に陥り、さらにそれが重なってしまった中高年は少なくない。

たとえば、

「離婚したので、支出を節約しようと保険を解約した直後に病気が見つかった」
「リストラされて、家族で実家に戻ったが、すぐに父親が亡くなり、母親が認知症発症。父親が遺した借金と母親の介護を背負うことになった」
「国内外を問わず、転勤などで引っ越しした先々で、大きな地震や台風被害などに遭ってしまう」

など、まさに“弱り目に祟り目”である。

こうした事例をたくさん聞いてきた筆者として、読者に言いたいのは、「とりわけ老後生活については、予想や予定通りにはいかないことが多い」と、あらかじめ覚悟しておいたほうが良いということだ。

その原因は、Aさんのような災害や病気やケガの場合もあるし、親の介護や夫婦間で意見が合わない、熟年離婚など家族間の問題、再就職できないなど経済的な問題など、さまざまだが、Aさんの世代では年齢的に健康上の理由が特に大きい。