学費稼ぎのために内部進学を強要

A校系列の専門学校に在籍する60数名の学生は皆、留学生である。内部進学者を含め、日本語能力を問われず入学した者ばかりだ。こうして学費稼ぎのため、語学力を問わず留学生を受け入れる学校は、全国でどんどん増えている。

文部科学省が2019年4月に発表した調査によれば、学生の9割以上を留学生が占める専門学校は全国で101校、全員が留学生という学校も45校に上っている。日本人学生が集まらず、留学生で生き残りを図っているのだ。

そうした学校も通常、日本語学校の証明書なしには入学は認めない。大学や専門学校は、留学生たちの学費滞納と失踪を最も恐れる。その点で、日本語学校の「卒業見込み証明書」は学費を支払っていた証しとなる。また、「出席証明書」に記された授業への出席率によって、失踪の可能性を測ることができる。

A校では、多くの留学生が、仕方なく系列の専門学校への内部進学に応じた。その大半はベトナム人とネパール人である。彼らの多くは、150万円前後にも及ぶ留学費用を借金して来日している。A校に在籍した1年半から2年間では、借金すら返済し終えていない者も少なくない。そのため簡単には帰国するわけにはいかない。そうした事情を知ったうえで、A校は留学生たちに内部進学を強要した。

証明書を発行してもらえず大学に行けない

そんな中、内部進学を拒否し、母国への帰国を決めた留学生がいる。ベトナム人のタン君(仮名・25歳)だ。

タン君はベトナム南部、ロンアン省の出身だ。地元で医療系の専門学校を卒業し、南部の大都市・ホーチミンの病院で介護の仕事に就いた。給与は月4万円ほどで、物価が急騰しているホーチミンでは生活に余裕はなかった。

「日本に行けば、お金持ちになれる。だから留学することにしたのです」

タン君は2018年7月、A校の留学生として来日した。だが、「お金持ち」の夢はA校によって潰されることになる。

A校を卒業後、タン君は大学への進学を望んでいた。大学や専門学校の授業を理解するには、最低でも日本語能力試験「N2」レベルの語学力が求められる。タン君は2つ下のN4すら合格していない。借金返済のため、アルバイトに追われる生活が影響してのことだ。彼に限らず、新興国から借金漬けで来日する留学生に共通する状況である。事実、タン君の同級生のベトナム人留学生には、N2合格者は1人もおらず、N4に至っても少数だった。

「だけど、入学試験を受けなくても進学できる大学はありました。でも、A校が証明書を発行してくれなかったので、進学はできなかった」