コロナで入国制限中も帰国を急かすA校
タン君は今年3月、A校を卒業した。そしてベトナムへの帰国準備を進めていた頃、新型コロナウイルスの感染が拡大し、帰国が困難になった。
それでもA校は、タン君に帰国を急かした。卒業生が日本に留まり、不法残留となれば、入管当局から学校側が責められる。新入生を受け入れる際、入管のビザ審査が厳しくなり、経営に悪影響が出てしまう。そのことを恐れ、帰国を急かすばかりか、母国へ戻るまでは「卒業証明書」も発行しない。A校に限らず、日本語学校の間で常態化している手法だ。タン君が言う。
「インターネットで検索すると、ベトナム便のチケットは4月でも売られていました。でも、実際に運行されるかどうかは分からない。しかも値段が片道で20万円以上もするんです」
日本とベトナム間の航空券は、オフシーズンであれば往復5万円程度で買える。しかもこの頃、ベトナムは自国民を含め、外国からの入国を実質止めていた。にもかかわらず、A校は航空券を購入させようとした。
タン君の留学ビザは4月下旬に在留期限を迎えることになっていた。そこで彼は最寄りの入管である東京出入国在留管理局宇都宮出張所を訪れ、在留期間を延長してくれるよう求めた。しかし入管もまた、航空券が販売されていることを理由に延長を拒んだ。
10万円給付の資格を失い、アルバイトもできない
このままでは、タン君は不法滞在者となってしまう。彼から連絡を受け、筆者は取材を通じ、入管庁に状況を説明し、見解を問うた。するとその直後、東京入管宇都宮出張所はタン君に3カ月の在留延長を認めた。
すでに日本語学校を卒業しているため、彼の在留資格は「留学」から「短期滞在」へと変わった。この資格では、外国人を含めて支給される「特別定額給付金」の10万円は受け取れない。給付金交付の基準日は4月27日だ。その直前、タン君は支給資格を失ってしまっていた。
しかも「短期滞在」外国人には、アルバイトも許されない。ベトナムへ帰国できるめどもなく、3カ月をアルバイトなしで過ごすことは、彼のような元留学生にとっては極めて厳しい。
その後、入管庁は5月20日、「短期滞在」の元留学生に対し、新たに「特定活動」という在留資格を認める方針を打ち出した。在留期間は6カ月で、アルバイトも認められる。
このニュースを聞き、タン君は再び東京入管宇都宮出張所を訪れた。しかし、「特定活動」へのビザ変更は拒否されてしまった。A校の卒業証明書を持っていないからだ。