企業によって「欲しい人物像」は大きく異なる

海老原嗣生氏

冒頭で紹介した男子学生のような「縁の下の力持ち」「協調」タイプは、大手メーカーやシステム開発企業から好まれる傾向があります。一方で、商社やリクルート系などは、肉食系=勇気・元気・やる気いっぱい、自分が一番、といったタイプが好まれます。証券もどちらかといえば、このタイプを欲しがります。つまり、彼が最初に受けた企業はことごとく、彼に合っていなかった。

都銀はどうか? 慶應なら卒業生に占める就職比率も非常に高いし、商社や証券よりは、「協調」が重要視されるから、かなり受かりそうな気がします。しかし、彼はこの業界でも3社も落ちている。なぜか? ひとつには、もうすでに“素”ではいけなくなった彼は、“なりすまし”で、協調よりも競争が好きな自分、を演じてしまった可能性があります。

もっと大きな問題があります。企業の「好きなタイプ」というのは、「協調⇔競争」といった軸以外にもいくつか重要な要素があるのです。たとえばそのひとつである「情を重んじるか、理を重んじるか」という部分で、彼は銀行系とは合致しなかったのではないか、と私は思っています。

どういうことでしょうか。

やはり、お金を扱う銀行という生業(なりわい=ビジネス)の性格上、ルールに厳格で情に流されない部分が必要なのです。彼の場合、優しい性格であり、融通も利くタイプだった。そこで、不合格となってしまったのではないか、と。

さていま、「協調⇔競争」という軸と、「情⇔理」という軸が出てきました。これ以外にも、軸はあと3つあり、企業は合わせて「5軸で学生をジャッジしている」と私は考えています。
軸の説明は後述しますが、ここで絶対に覚えておいてほしいこと。

企業とは、「自分の会社に合うかどうか」を面接で見ているのです。たとえば、年功序列色の強いような大手老舗企業に、「自律的で課題発見能力の高い」学生が応募したら、「いい学生だけど、わが社では長続きしないだろう」と不合格になる。つまり、「黄金の学生」になりすましても、それで合格が勝ち取れるのではありません。

この、「黄金伝説」をまずは払拭してほしいのです。そして、受かる・落ちるというのは、あくまでも「合っているかどうか」の話なのであり、隣席の学生が内定を5個もらったから、「あいつは優秀で、俺はダメ」などと落ち込む必要もないと、気づいてください。先ほどから何回も登場した慶應の彼だって、最初にメーカーとシステム会社を受けていたら、早々に何社も内定していたはずです。意気消沈して周りが偉く見えていた彼が、受ける順番を変えれば、逆にみんなから羨望の眼差しで見られていたでしょう。受かる・落ちるとは、この程度のことなのです。

※この連載では、プレジデント社の新刊『2社で迷ったらぜひ、5社落ちたら絶対読むべき就活本』 (1月21日発売)から一部を抜粋して<全6回>でお届けします。

(澁谷高晴=撮影)