父親の退職金もない!? 貯金もない!? どこへいった?

山口さんにとって人生の転換期となった2017年は、母親の介護生活がスタートしたこと以外にも、家庭の関係性が大きく変わった年だった。このことが、のちの母親の介護に経済的な側面で暗い影を落とすことになる。

2017年2月、母方の祖母の葬儀前日に、父親から電話があった。

「父は、『葬式をするから金を出せ』と、兄と私に要求してきました。母方の親戚たちは、『お金がないならそれなりの葬儀で良い』と考えていたにもかかわらず、自分の見栄のために、勝手に採算度外視の葬儀を決めてしまっていたんです。父の身勝手さにあきれ、葬儀中も怒りを抑えるのに必死でした」

このとき山口さんは、豪華な葬儀を決めてしまったために費用が足りなくなったのであって、生活するためのお金は特に心配する必要がないと思っていた。

ところが、寝耳に水の話を聞かされる。同じ年の夏ごろ、父親は「(母・姉が住んでいた賃貸)アパートの電気代が払えず、電気を止められている」と言い始めたのだ。さらに、父親と母親と姉が契約している携帯電話料金が、月に計10万円以上もかかっていること、さらに賃貸アパートの家賃を6カ月も滞納していたことも発覚した。

携帯料金の明細を確認すると、姉がスマホゲームで頻繁に課金をしていたためだと分かった。山口さんは、兄とともに姉の入院先へ行き、明細を見せて厳重注意した。すると姉は涙を流して謝罪し、反省の弁を述べた。

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父親の退職金は跡形もなく、貯金は底を尽きていた

そして「なぜ電気が止められるのか?」「家賃を滞納しているのか?」と両親に問いただし、父親と母親の通帳と印鑑をすべて没収。2人の通帳を見ると、1000万円以上あった父親の退職金は跡形もなく、貯金は底を尽きていた。裏切られたような気持ちになった山口さんは「ふざけるな! 家族全員死ねばいい!」と思ったと当時を振り返る。

「父も母も、親がしっかりした人で、それなりに資産もあったため、お金に苦労した経験がなかったようです。そのときまで何とかなっていたのは、専業主婦と子ども3人を、男一人の稼ぎで養えたという時代背景と、たまたま祖父母が遺してくれた財産があったからにすぎないのだと確信しました。つまり、家族の中に、まともに金銭管理ができる人間が一人もいなかったのです」

母親は家計費が足りなくなると、祖父が残してくれた山林を売って急場をしのいでいたが、焼け石に水だったようだ。山口さんは、兄の了承を得て、両親の通帳を預かり、年金の中から毎月必要な分だけ渡すことにした。