大学には1学期も通えず徐々にひきこもり状況は悪化した
まずは、当事者であるAさんの過去を振り返ってみることにしよう。
Aさんは浪人を経て大学に進学したものの、1年生のゴールデンウイーク明けから学校に通えなくなった。本来、人付き合いが苦手なおとなしい性格で、ゴールデンウイークに入るまでに仲の良い友達を大学で作ることができず、「ひとりぼっち」の学生生活を想像すると、登校するのが怖くなったという。
学校に行けなくなっても、しばらくは買い物などで外出していたが、同級生が2年生に上がる頃、「自分は進級できない現実」を実感して、徐々に外出も難しくなっていった。
両親は結局、大学2年生の分までは学費を払ったが、1単位も取れていなかったため、大学3年生に進級することは難しいとの大学側の指摘で、退学することになった。
大学に行かなくなってからは、家からほとんど出ない時間が「年単位」で続いていたが、小学校、中学校時代の友人で、唯一連絡を取り続けていた人がいた。
その唯一の友人とAさんとは、20代になっても年に2回程度、食事をしていた。そしてひきこもりのまま30代となった頃、その友人から「実は俺、結婚することになったんだ」という話が出た。
その話を聞いたときは、自分の状況を理解してくれる唯一の存在を失う気がして、しばらくはショックから立ち直れなかったという。
ところが、「結婚式に招待するつもりだけど、出席してくれるか?」と聞かれたことで、一念発起。「親に言えば、ご祝儀は出してくれるはずだけど、彼へのご祝儀だけは自分で稼ぎたい」という意欲が湧いたのだった。
今まで、アルバイトの経験もなかったが、Aさんは自分でアルバイトを探し、採用後、すぐに働き始めた。
この時点まで、ひきこもり状態は10年以上続いており、コンビニに買い物に行く以外は家から出られないくらい状態は悪化していたにもかかわらず、Aさんはいきなりの社会復帰を果たすこととなる。
Aさんが働き始めた事実に、ご両親は喜びつつも、大きな戸惑いを感じたという。
同世代がいないバイトを探したことが長く続いているコツ
Aさんがアルバイト探しをする際、ポイントと考えたのは以下の通り。
➀同年代の人とはうまく会話できないので、若い世代が少ない仕事であること。
②午前中に起きるのはつらいため、早くても午後から、できれば夕方以降の仕事であること。
➂体調が悪くて休んだとしても、すぐにクビにされなくて済みそうな、それほど人気の高くない仕事であること。
④電車で通うのは難しいので、自転車、あるいは50ccのバイクで通える範囲に職場があること。
これらの条件をクリアし、Aさんが得た仕事は、マンションの夜間管理人だった。
「24時間常駐管理」のマンションで、深夜だけの勤務というのが、彼の人生初の仕事になった。
深夜帯なので、アルバイトにしては時給もよく、で1200円以上になるという。