ひきこもり10年超の男性が結婚式後の今もアルバイトを継続するワケ
Aさんは週に2回程度のアルバイトを続け、無事に友人への祝儀代を稼ぐことができた。
自分で稼げるようになると、お金よりも結婚式(披露宴)で過去の知り合いに出会うことのほうに勇気が要ったが、それも何とか乗り越え、久しぶりに大勢の人が集まる席にも参加することができた。
同世代の友人と会話するのが苦手なAさんが窮することなくその場に参加できたのは、おそらく唯一の友人である彼が、Aさんの状況を彼の友人たちに説明してくれていたからではないかと、想像している。
さて、先に紹介した資産状況をご覧いただくと、Aさん家庭は、親が持つ資産(貯蓄約1億1000万円)で、サバイバルプラン(親亡き後も生きていくためのプラン)が成り立つことは想像いただけるだろう。
Aさんのケースでは、1回目の相談時にサバイバルプランが成り立つことを、ご両親、Aさんとも確認ができていた。
Aさんにとっての問題は、兄弟姉妹がいないひとりっ子であり、いとことも疎遠で、親亡き後のサポートを頼める親類が1人もいないこと。そのため、Aさんのサポートを、誰に、どのように託していくかに、相談の焦点は移行していた。
そのような相談過程で、思いがけずAさんが働き始めたことになるが、実はAさんの仕事には続きがある。
結婚式も終わったので、アルバイトを辞めようと思っていたAさんに、雇い先から正社員登用の話があったのだ。
雇用先の人事担当者から、「君はまじめに働いてくれているから、よかったら正社員にならないか?」と誘われたのだ。思いがけない誘いで、Aさんも正社員になることに魅力を感じないわけではなかったが、結果として正社員の誘いは断り、かつ今も同じ職場でアルバイトを続けている。
「バイト先にはおじいさんは僕を孫のようにかわいがってくれる」
その理由をAさんに尋ねると、次のようなコメントが返ってきた。
「今のアルバイト先にはおじいさんしかいなくて、みんな僕を孫のようにかわいがってくれています。それに、深夜の時間帯しか働いていないので、住民と顔を合わせる機会もほとんどありません。人付き合いが苦手な僕には、とてもありがたい職場なんです。ですが、もし僕が正社員になったら、昼間の勤務を強要されるかもしれませんよね。昼間の時間帯に働くことになれば、いろいろなトラブルに対応しなければならないと思うんですね。僕にはトラブル対応する能力はないので、深夜にひっそりと働くのが向いていると思っています」
ひきこもり期間が長い人は、世間話だとしても、世間の荒波にもまれながら働いてきた同世代から質問を受けるのが怖いと感じるケースが多いはずだ。Aさんもそのように感じたからこそ、同世代がいない職場を見つけて、なんとか社会復帰を果たしたのである。