3代目の大河内源二社長は言う。
「息子らの代では、船員の供給源に近いマニラやシンガポールにマネジメント事務所を持つかもしれません。じゃが本拠はここ。造船所もファイナンサーも近いですしね。船主の使命は、安く、しっかり安全運航させること。この精度を上げていけば波方は生き残ると思います」
波方の峠をクルマで下り、入り江を迂回すると今治造船の本社・工場に行き当たる。洞雲汽船からは10分ほどの近さだ。今治造船の工場は、本社のほかに西条市、丸亀市、三原市、下松市など4県8カ所に散らばっている。経営が傾いた造船所を買収してきた結果である。その11の船台は、向こう5年間、造船計画で埋まっている。檜垣幸人社長が瀬戸内海の地図を広げて説明する。
「新日鉄大分がここ、JFE福山、JFE水島、隣が神戸製鋼加古川でしょ。エンジンも、鋼材もぜんぶ瀬戸内で集められる。われわれの材料部品の国内調達率は95%。内海だから船で運べて通関もない。でも、中国は40%です。10年にはケープ型200隻以上を竣工すると言うてますが、さぁ、どうでしょう」
檜垣が指摘した中国の大量造船は、「2010年問題」と呼ばれる。順風満帆にみえる商船三井の行く手に待ち構える難所の1つだ。ケープの世界市場は800隻弱で構成されている。ここにいきなり200隻も投入されれば、需給バランスが崩れて市況が暴落するのでは、と不安視される。
中国では国営と非国営の新興造船所が短期建造を売り物に海外船主の注文をとりまくってきた。07年度の新造船受注量は前年の2倍。しかし、新興造船所は手付金で工場建設から始める綱渡りも演じている。あらゆる産業に異業種の成り金が進出する「チャイナリスク」の一例だろう。昨年は竣工予定の1割が納期に間に合わず、引き渡せなかったといわれる。はたして計画どおり船は進水するのか。