司会進行は官邸側に丸投げ
この安倍首相の発言には重要なポイントが2つある。一つは記者クラブから質問の事前通告を受けていると公式に認めたこと。もう一つは、質問者を決めるのは官僚である内閣広報官だと自白したことだ。
ここでみなさんに大切な視点を提示したい。それは、首相官邸で行われる記者会見は「誰が主催しているのか」ということだ。
首相ではない。官邸でもない。新聞・テレビ・通信社など、いわゆる大手メディアの記者たちで構成される「記者クラブ」である。
首相官邸にある記者クラブの正式名称は「永田クラブ(内閣記者会)」という。普通に考えれば、主催者は記者会見を仕切る立場にある。しかし、現状を見る限り、内閣記者会は主催者と呼ぶには程遠い。それは記者会見で一番重要な司会進行を、一官僚である内閣広報官に丸投げしていることからも明らかだ。
これが何を意味するかは、記者であれば容易に想像できるだろう。想像できない記者は人が良すぎる。時には報道側が厳しく監視すべき対象になる官僚を甘く見すぎている。官僚と記者は、そもそも立場が違う。官僚は決して「報道側」の人間ではない。官僚を無条件に信用することは、権力監視の役割を担う記者として、あまりに無防備すぎる。
一般読者のために、もう少しわかりやすく解説する。官僚が質問する記者を指名することには大きな問題がある。それは、「権力側にとって不都合な質問をする記者を恣意的に排除できる可能性」をはらんでいるからだ。
主催者は本当に記者クラブなのか
首相会見の実態は、同じ記者職にあっても知る者が少ない。国内には多くの記者クラブが存在するが、それぞれの記者クラブは「独立した存在」であるからだ。
当然、記者クラブによって実情は大きく異なる。厚生労働省の記者クラブ(厚生労働記者会)のように、フリーランスの記者が大臣会見に出席することを記者クラブ側が主体的に認めたケースもある。
一方、外務省の記者クラブ(霞クラブ)のように、権力側が主導して会見をオープンにしたケースもある。また、防衛省、警察庁、宮内庁のように、いまだに記者クラブ限定の「閉ざされた記者会見」を続けているケースもある。
残念ながら、内閣記者会は会見のオープン化に消極的だと言わざるを得ない。少なくとも、フリーランスの記者たちが会見のオープン化を求めても、「同じ報道の人間」として加勢することはなかったはずだ。
もし、内閣記者会が会見のオープン化に向けて尽力した証拠があるならば、ぜひ提示してもらいたい。それならば私は共闘できる。報道側の人間が対峙すべきは、情報公開に後ろ向きな権力側だと私は考えているからだ。