公的機関が保有する情報は、納税者たる国民のものだ。公的な立場にある首相の言葉も同じはずだ。その言葉を引き出すための記者会見は、もっとオープンなものであるべきではないだろうか。

記者同士が対立しては権力側の思うつぼ

私はいま、内閣記者会のみなさんの心に直接語りかけている。記者は権力者側に立つべきではない。ぜひ、軸足を国民の側、視聴者や読者の側に置くことを思い出してほしい。

記者は成果物である報道で競争すればいい。官邸で開かれる公的な記者会見への参加をめぐって記者同士が対立している現状は、権力側の思うつぼだ。「国民の知る権利」に資する共闘であれば、必ず多くの人たちが味方になってくれるはずだ。

そもそも、官庁が庁舎内に「家賃無料の記者室」を提供している理由は、記者クラブの向こうに国民が見えるからではなかったか。

ここまで言ってもわからない記者もいるだろう。そんな記者には、ぜひ、「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」を読み直してもらいたい。

この名文には、「記者クラブは『開かれた存在』であるべき」「より開かれた会見を追求していくべき」という崇高な理想がふんだんに盛り込まれている。

この見解が最初に示されたのは2002年のことだ。2006年には一部が改定されている。最新の見解からすでに14年以上が経過した今、実態はどうなっているだろうか? 私は記者クラブに所属する記者のみならず、多くの人に真剣に考えてほしいと思っている。

会見参加者に課された高いハードル

内輪話はここまでにして、ここからは一般の読者に首相会見の実態を説明したい。まず念頭に置いてほしいのは、これは決して私の自慢話ではないということだ。むしろ、首相会見の「恥ずかしい実態」の暴露である。

今、首相会見に出席できる記者は極めて限られている。「内閣記者会以外の記者」にとって、首相会見に参加するためのハードルが異常に高いからだ。私のようなフリーランスの記者が首相会見に参加するためには、まず、官邸報道室が管理する「事前登録者リスト」に名を連ねる必要がある。その条件は驚くほど厳しい。

第1の条件は「日本新聞協会、日本専門新聞協会、日本雑誌協会、日本インターネット報道協会が発行する媒体に署名記事等を提供し、十分な活動実績・実態を有する者」だ(※2)

※2:官邸ホームページ『新型コロナウイルス感染症に関する安倍内閣総理大臣記者会見への参加について