「頑張る先生を応援します」というスローガンを変えた理由

——目指す方向性とは、会社で言えば理念やビジョンに当たります。3代目社長として、社内にどのようなメッセージを示したのですか。

撮影=プレジデントオンライン編集部

父の時代は「頑張る先生を応援します」というスローガンを掲げていましたが、私の代になってから「熱意はきっと子どもに届く」に変えました。変えた理由は、読者である学校の先生たちに寄り添う姿勢を示したかったから。

「頑張る先生を応援します」というのは、われわれの会社がどうするか、つまり主語が“出版社”なんですね。それに学校の先生はすでに十分頑張っているのだから、私たちはその努力をそばでサポートする身近な存在でありたいし、「あなたの頑張りは必ず子どもたちに届きますよ」と伝えたい。常に「先生がどうしたいのか」にフォーカスし、“先生”を主語に物事を考える会社でありたいという思いを新しいスローガンに込めました。

——ビジョンから組織風土、人材、現場の業務まで、あらゆるレイヤーで会社を改革されたのですね。

私は家業を継いだ身ですが、「事業承継」という言葉はあまり好きじゃないんですよ。事業をただ受け継ぐだけでは、会社はいずれつぶれる。新しいことをやり続けて、それでやっと既存の事業を維持できるんです。だから守るべきものは守りながら、攻め続けなくてはいけない。父から受け継いだものを使いながら、その上に3代目としてどんな新しい色を塗っていくのか。それを問われているのだと思っています。

シリーズ累計100万部の「板書シリーズ」をリニューアル

そのチャレンジの一つとして、2015年から一般書にも進出しました。主にスポーツ分野の本を出していて、最近は書店からも「教育だけでなくスポーツも得意な出版社」と認知されています。社長自らチャレンジし、時には失敗する姿を見せることで、社員たちも失敗を恐れず新しいことにどんどん取り組んでくれるだろうという狙いもありました。実際に、従業員にも良い刺激になっているようです。

——東洋館出版社の柱とも言えるヒット作品が、シリーズ累計100万部を突破した「板書シリーズ」です。学校の先生が授業で黒板に書く内容がわかりやすく図解され、授業づくりのポイントや学習の進め方が丁寧にアドバイスされています。こういう本があれば先生たちはさぞ助かるだろうと感心したのですが、このシリーズが3月に大幅リニューアルしたと聞きました。これも3代目としての新たなチャレンジですか。

「板書シリーズ」は父が社長だった2003年に発売を開始し、東洋館出版社の歴代作品の中でも桁違いのヒットとなった非常に大事な商品です。私は父からそれを受け継いだわけですが、やはりただ承継するだけではいけない。受け継いだものを進化させるからこそ、大事なこのシリーズを守れるのだ。そう考えて、リニューアルを決断しました。