スペイン風邪も流行開始から3年後に「うそのように去っていった」
ただ、ウイルスの脅威が数年後に弱まる可能性もある。約100年前に世界を混乱に陥れたインフルエンザ、通称「スペイン風邪」は、1918年から約3年間続き、世界人口のおよそ18億人のうち約6億人が感染した。折しも世界は第1次世界大戦中で、各国が感染情報を秘密にしたことや、軍隊生活の3密状態+栄養不足+医療不足も加わり、膨大な死者を出し、結果的に大戦終結が早まったともいわれている。
日本でも「国内感染者は2300万人を超え、死者の合計は38万6000人に達した」と記録されているが、専門家の試算によるとそれよりも多く、実際は「死亡数は45万人にのぼる」ともされている。
だが、それほどまで人々を恐怖に突き落としたスペイン風邪も、流行開始から3年後の1921年には「うそのように去っていった」という。その後も10年ほどは目立たない程度に流行を繰り返してはいたが、かつてのような脅威ではなくなったというのだ。
ウイルスとの平和共存が両者にとって有利
このようにウイルスや細菌は、弱体化・無害化の道をたどることもある。過去の梅毒や細菌性赤痢も、毒性の弱いタイプに入れ替わっている。この現象について石氏はこう解説している。
「これは生物進化からも説明ができる。病原体が宿主の動物に感染してから長い時間かけて共進化すると、ついには宿主に重大な病気を引き起こすことなく共存状態になる。病原性が強いままだと宿主を殺して共倒れになる危険性があり、平和共存は両者にとって有利だ。(中略)リチャード・ドーキンスが提唱した『利己的な遺伝子』の考えに従えば、ウイルスにとってもっとも有利な寄生方法は、宿主(遺伝子の乗り物)を殺さずにいつまでも自己の複製をさせることだ」(『感染症の世界史』)
今後も、ウイルスや細菌と私たち人類は、つかず離れずの距離を保ち共存していくことが余儀なくされるということだ。