ウイルスと人類の長い共存の歴史

そもそも、「感染」とは、細菌やウイルスなどが、人や動物などの〈宿主〉に寄生し、体内で増殖することを指す。仮に感染しても宿主が無症状なら、そのまま平和に共存することもできる。だが、宿主の体調が悪化する場合、それは「感染症」ということになる。

これまでも実に多くの感染症が人類の行く手を阻んできた。ペスト、コレラ、天然痘、梅毒、結核、ハンセン病、マラリア、デング熱、エボラ出血熱、エイズなどなど。今日でも、麻疹、風疹、水ぼうそう、破傷風、インフルエンザ、マイコプラズマ肺炎などは私たちの身の回りに常にある。こうしてみると世の中は「感染症」だらけだ。

歴史的なパンデミックとしては、13世紀のハンセン病、14世紀のペスト、16世紀の梅毒、17~18世紀の天然痘、19世紀のコレラと結核、20世紀に入ってからはスペイン風邪やエイズなどがあった。だが、このなかで人類が完全に撲滅できたのは、実に天然痘ただひとつ。紀元前から存在し、感染力、罹患率、致死率ともに高く、顔に瘢痕が残るこの感染症は、1977年にソマリアで発症した人を最後に感染が確認されず、WHO(世界保健機構)は1980年に世界根絶宣言を行った。逆にいえば、それ以外の感染症は、今もこの世界のどこかに存在し、忘れた頃に流行を繰り返しているということだ。

病原体との闘いは、未来永劫につづく宿命

2014年に発刊され、コロナ禍において話題になった『感染症の世界史』で、著者の石弘之氏はこう述べている。「人と病原体との闘いは、未来永劫につづく宿命」だと。

石氏の視点では、私たち人類がさまざまな苦難を乗り越えて進化してきたのと同様、ウイルスや細菌もまた、自らの進化のため、〈宿主〉として私たち生物を選び、あるときは壮絶な闘いをしかけ、あるときは共存関係を保つことで、共に長い歴史を歩んできたからだ。人類の歴史はたかだか20万年、微生物の歴史は40億年にも及ぶ。彼らの生命力(?)を打ち滅ぼす方法は、簡単には見つからないということだ。