そもそも人類が栄えたのはウイルスのおかげ

この本のなかで特に目からウロコだったのは、そもそも人類の誕生にはウイルスの助けが欠かせないという事実だ。

私たち哺乳類は新しい生命を母親の胎内で育てる。だが、そもそも胎児の遺伝形質の半分は父親由来である。いわば「移植された臓器のように母親の免疫系にとっては異質な存在」であり、「通常なら母体の免疫反応によって胎児は生きてはいけないはず」なのだ。その謎を解いたのが「1970年代に入って、哺乳動物の胎盤から大量のウイルスが発見された」ことだったという。ウイルスの作用により、母親の免疫反応が抑制され、本来「異物」として排除されるべき胎児も母親の胎内にとどまることができているというのだ。

それだけではない。2003年の「ヒトゲノム計画」で、人間のゲノム解読が完了したが、その結果、私たちの体を設計する役割を持つゲノムの約半数はウイルス由来であることもわかったという。これらウイルス由来の遺伝子は、「進化の途上で人の遺伝子にもぐりこんだもの」であり、「過去に大暴れしたウイルスの残骸かもしれない」。

細菌なくして生態系の存続なし

細菌もそうだ。ペストやコレラなど、細菌が引き起こす恐ろしい病もあるが、そもそも私たちの手や腸内、口腔内などには無数の常在菌が棲息し、人体と平和に共存することで私たちの健康は維持されている。特に100兆個もの細菌がすみつく腸内は、多様な植物が咲き誇る様を模して「腸内フローラ」とも呼ばれている。細菌なくして生態系の存続なし。

つまり、ウイルスも細菌も、人類とは互いの進化を支え合う、切っても切れない不思議な共存関係でもあるのだ。