死後CTだけではコロナ肺炎の診断はできない

——亡くなってしまえば本人から事情を聴くこともできません。医療にもかかっていないとなれば、どのように死因を見つけていくのでしょうか。特に、今恐れられている新型コロナウイルスの感染の有無などは……。

【槇野】新型コロナウイルス肺炎による死亡についていえば、医療にかからず死亡した方全員に対してPCR検査と解剖を行うのが、もっとも見逃しが少ないわけですが、現実的ではありません。

報道の中には、「日本は死後CT(コンピュータ断層撮影)を撮っているので、死因が新型コロナウイルス肺炎であることを見逃してはいない」ととられかねない内容が見受けられた時期もありました。しかし、そもそも全死亡例に死後CTを実施している自治体は、私の知る限りありません。

また、死後CTだけで、新型コロナウイルス肺炎を診断するのはそもそも不可能です。生きている患者さんでも、CT所見はさまざまなウイルス性肺炎で共通するもので、CTだけでの新型コロナウイルス肺炎診断はできません。死後CTではそれに加えて、新型コロナウイルス肺炎に類似した所見が、普通の死後変化として認められたりします。

「目の前の遺体すら感染しているかもしれない」

——人が亡くなった後の診断というのは、難しいものなのですね。

【槇野】はい。新型コロナウイルス肺炎の死後CTの報告は最近になって、段々と報告されてきています。自施設ではまだ新型コロナウイルス肺炎の死後CTは診ていませんが、留学していたアメリカ合衆国のニューメキシコ州法医学施設では、既に何例も死後CTを経験し、それを頼んで見させていただきました。

これらを見ても、肺炎の所見は別の疾患の死後CTで認められるものと同じであったり、死後変化と区別できなかったりと、予想通りの結果でした。死後CTで新型コロナウイルス肺炎を診断するのは難しいのです。

——新型コロナウイルスは、死後も他者に感染させるリスクがあることは、志村けんさんや岡江久美子さんが亡くなったときの対応を見て多くの方が知ったと思います。感染の有無が分からないまま亡くなった場合、遺体から感染する心配がありますね。

【槇野】おっしゃる通りです。われわれのように死因不明遺体を扱う職種は、警察や葬儀業者も含め、常に感染リスクにさらされています。少し前に、某警察署の刑事課の警察官が感染したというニュースがありましたが、もしかしたら死体からかもしれません。

——他にも、交通事故で亡くなった方が、実は新型コロナウイルスに感染していたというニュースもありましたね。

【槇野】感染が拡大してきて、目の前の死体が新型コロナウイルスに感染しているのかどうか、それが全くわからない状況になってきました。ただ、全ての遺体にPCR検査をするのは、なかなか難しいのが現状ですね。