私のクリニックがある大阪・心斎橋の近くには道頓堀川という有名な川があります。口臭の発生は川のにおいとよく似ており、透明で美しい川は臭いません。ですが道頓堀川のような汚れた川でも、流れが速いときは臭わないのです。同じように、唾液の質と新鮮な唾液の絶え間ない流れが、口臭を起こさないための重要な鍵となるのです。

長生きする人は唾液が多い

唾液には様々な機能があります。唾液によって食事や消化だけでなく、会話や感染防御などが円滑に行われています。口臭だけでなく、これらのことに関しても、唾液の質と流れが重要となります。実際、長生きする人は唾液が多いです。

唾液の質の低下は、口や喉や鼻などからの血液や膿と、飲食や喫煙などに伴う舌の上の汚れが原因です。しかし、しっかりと新鮮な唾液の流れがあるうちは、それほど臭うことはないのです。

食後すぐは新鮮な唾液の流れがあるので、普段病的口臭のある人でも口臭が消えます。

唾液の流れは、無意識に舌を前後に波打つように動かしながら、唾液を出してはのみ込むといった機能で維持されています。

睡眠中は、舌の動きが緩慢になり、唾液の流れが停滞してしまいます。新鮮な唾液の流れがなくなることで、善玉菌が酸素を消費して酸素不足となり、悪玉菌である歯周病菌などの嫌気性菌の活動が活発になり、細菌数も増殖します。それと同時に、口の中に残っていた飲食物による汚れも消化酵素によって分解を受け、非常に不潔な状態になり、起床時に口臭をもたらします。

また、緊張やストレスを抱えたときも無意識に奥歯を噛みしめるため、舌が動かなくなり口臭が生じます。

スマホやゲームなどを長時間していると目線が下向きになりますから、無意識に両奥歯が接触し、その間は舌が動かなくなります。これも口臭の原因となります。緊張やストレスだけでなく、このような習慣も口臭発生リスクに関わってきます。

心臓が常に動いて全身に新鮮な血流を送り出すことで体調を維持しているように、舌は新鮮な唾液の流れを維持する心臓のような役割があるのです。

この無意識の舌の動きによる機能は、自律神経機能によるものです。ストレスや心理的な不安が続くと、舌の動きが緩慢になり、唾液の流れが停滞してストレス性の口臭を引き起こします。

唾液とは別に、各臓器の代謝の結果も口臭の原因になります。お酒を飲みすぎると肝臓での代謝が追いつかず発生するアルコール臭、ニンニク料理を食べると代謝によってつくられるニンニク臭などがわかりやすい例です。また、糖尿病などの代謝疾患に陥ると通常とは異なる代謝が行われ、吐く息が腐敗した果物のような口臭になります。腎疾患であれば、アンモニア臭が発生します。この症状は、しばしば嗅診といって口臭の種類による病気の診断に役立つこともあります。また朝食を抜いたり、無理なダイエットを行うと血糖値が低下し、脂肪の代謝過程でケトン体がつくられ、これも口臭の原因となります。