司馬さんが言うところの、誰もが不慣れながら新国民になった……。この“痛々しいまでの高揚感”がわからなければ、この時代を理解できないと思います。いまは小学生が人生をあきらめるようなことを言ったり、「疲れた」とすぐに口にするような時代。真之の時代の初々しく純真な期待感を想像できるようでいて、実はできていないと思うのです。

しかし、その実感しにくい明治という時代の空気と躍動をドラマから感じていただくことができて、我々の世代や、さらに若い世代にもつながっていくものがあるとしたら、とても興味深いことだと思います。

また、近代日本の発足期は、維新後のぐつぐつした熱の中でいろいろなものが噴出している時期だから、司馬さんの言った「日本人とは何か」「日本とはどんな国か」という問いの意味と答えが、様々な形で露呈され、漂っていたと思います。それらを受け止めて、個人のあり方、国のあり方を挙げていくと、現代日本人にも必要なメッセージが多々あるように思います。

司馬さんは小学生向けに書かれた『21世紀に生きる君たちへ』の中で、「歴史というのはかつて存在した何億という人たちの人生と感情が詰め込まれた大きな世界だ」と言っています。自分はこの世にたくさんの友人がいるけれど、歴史の中にも、この世では得難い素晴らしい友人たちがいる。その人たちに日常を励まされたり、慰められたりしている、それが歴史の魅力だと。シンプルですがこの本は、ボクにとってのバイブルでもあります。

真之も、戦いが終われば敵の屍に祈るという行為が自然とできる日本人であって、このような武士道的心のありように胸を打たれます。ボクが演じる真之さんをはじめ、『坂の上の雲』に登場する明治の美しい日本人たちを見て、皆さん一人ひとりがこれからの自分と私たちの行く先を考えるきっかけにしていただけたら嬉しいと思います。

(構成/小澤啓司 人物撮影/椿 孝)