「米中冷戦」の可能性が大幅に高まっている

——あなたは、米国のリーダーシップが不在の主導国なき世界を「Gゼロ」と呼んでいます。そして、コロナ禍は「『Gゼロ時代』初の地政学的危機」だと分析しています。この「100年に一度のパンデミック」をどう位置づけますか。

これは「Gゼロ時代」になって初めての地政学的危機だが、不幸にも、ことのほか大きな危機が起こってしまった。まさにグローバルなパンデミックであり、経済的メルトダウン(崩壊)も世界規模だ。

それにもかかわらず、医療面でも経済面でも、グローバルなリーダーシップや協調が見られない。その結果、より多くの人々が命を落とし、経済や地政学への打撃も拡大してしまった。今後、世界を取り巻く地政学的環境は、今よりはるかに危険なものになるだろう。米中冷戦の可能性が大幅に高まるなど、いくつもの難題が待ち受けている。

撮影=Richard Jopson
イアン・ブレマー氏(今回の取材写真ではありません)

経済が本格的に回り始めるのはいつになるのか

——あなたは動画の中で、ワクチンができないと人々が安心して遊びに行けないため、米国経済の回復には時間がかかると話しています。「力強い『V字回復』などという見方は楽観的すぎる」と。トランプ大統領は4月16日、経済活動再開に向けた3段階の指針を発表しました。反ロックダウン派のデモも増えています。

ニューヨーク州のロックダウンは5月15日までとされているが、例えば6月1日に延びるのかなど、はっきりしたことはわからない(注:クオモ知事は5月4日、同州の中で感染者が少ない地域から経済活動の再開を検討すると発表)。仮に再開したとしても、まだ第1段階にすぎない(注:第1段階はソーシャルディスタンシングの続行推奨、10人以上の集会や不要不急の移動を回避、企業のテレワーク続行推奨、段階的な出社の可能性、不要不急の出張を最小化など)

最も大切なことは、第1段階開始の時期ではない。経済が本格的に回り始めるのはいつになるのか、という点だ。それは、まだ先の話だろう。感染者の接触経路追跡や医療用マスク「N95」の供給、抗体検査などが十分に実施されなければ、人々は安心して飛行に乗ったり、子供を通学させたり、レストランや映画に行ったりできない。大きなスタジアムやナイトクラブとなれば、なおさらだ。