厚労省の橋本岳副大臣が船内アナウンスで話したこと
2月14日 六時半起床 八時半朝食。
九時半、船内放送。突然、信じられないことが起こった。
厚生労働省の橋本岳副大臣が直接話をはじめたのだ。
何か新しいことを言うのかと期待したが、まったくそのような内容ではなく、今までの実績を述べだした。
薬の配布が十一日で終わった、体調悪化の人に対し緊急の電話窓口を設置した、80歳以上の人に対して検査をはじめた等々。
私も妻もこれにはあきれてしまった。
「なぜ今ごろになってご登場?」
「なんですんだことをわざわざ言うのか。これから何をするのか、どんな方針を立てているのか、その説明をなぜしないんだ!」
乗客もクルーも知りたいのはこれからのことだ。
顔を現した途端、今までの実績を自慢しはじめた
しかも橋本副大臣の口調には自慢げなものすら感じられた。まだはっきり確定できない先のことを話して、嘘をついた、裏切ったなど、うかつな言質をとられないように予防線を張ったのかもしれない。けれど、閉じこめられ、不安のなかにいる人々の気持ちがまるでわかっていない。ほんとうに腹立たしかった。
何千人という人間を隔離するには、余程の“繊細な手つき”というべきものが必要なのだ。隔離するにあたり、病人はどうするのか、体の弱い老人たちはどうするのか、隔離した乗客をだれが、どのように面倒をみるのか、クルーは感染していないのだろうか、それらを検討したのだろうか。
もし検討したならば、何十人もの感染者を出してしまった、その結果に対する反省はどこにあるのか。
そのような気配は橋本副大臣の口調からは一切感じられなかった、このことは絶対に忘れないだろう。極端をいうなら、乗客、クルーともども潜在的感染者として座敷牢に閉じこめなければならない、そんな無意識が働いているのではないかとさえ感じられた。このような乱暴さは、国内で感染が拡大したときの安倍首相の「明後日から一斉休校」といった、あの乱暴さに酷似していたと思える。そこには弱者に対する目配りである“繊細な手つき”というものはまったくなかったからだ。
厚生労働省の顔がそれまでまったく見えず、いろいろな改善が厚生労働省によるものか、それとも船側によるものかがわからなかった。わずかにS記者の情報により、薬の配布は厚生労働省だと知っただけだった。
それも公式な船内放送で知ったわけではない。
今日、突然、厚生労働省が顔を現した途端、今までの実績の自慢げな放送をはじめるとは、これを驚かない乗客はいなかったはずだ。たしかこの日はバレンタインデーだった。私たち夫婦は、この日を“バレンタインデーの悪夢”と呼んだ。(続く)