厚労省の橋本岳副大臣が船内アナウンスで話したこと

2月14日 六時半起床 八時半朝食。

九時半、船内放送。突然、信じられないことが起こった。

厚生労働省の橋本岳副大臣が直接話をはじめたのだ。

参院予算委員会で答弁する橋本岳厚生労働副大臣=2020年3月23日、国会内(写真=時事通信フォト)

何か新しいことを言うのかと期待したが、まったくそのような内容ではなく、今までの実績を述べだした。

薬の配布が十一日で終わった、体調悪化の人に対し緊急の電話窓口を設置した、80歳以上の人に対して検査をはじめた等々。

私も妻もこれにはあきれてしまった。

「なぜ今ごろになってご登場?」
「なんですんだことをわざわざ言うのか。これから何をするのか、どんな方針を立てているのか、その説明をなぜしないんだ!」

乗客もクルーも知りたいのはこれからのことだ。

顔を現した途端、今までの実績を自慢しはじめた

しかも橋本副大臣の口調には自慢げなものすら感じられた。まだはっきり確定できない先のことを話して、嘘をついた、裏切ったなど、うかつな言質をとられないように予防線を張ったのかもしれない。けれど、閉じこめられ、不安のなかにいる人々の気持ちがまるでわかっていない。ほんとうに腹立たしかった。

何千人という人間を隔離するには、余程の“繊細な手つき”というべきものが必要なのだ。隔離するにあたり、病人はどうするのか、体の弱い老人たちはどうするのか、隔離した乗客をだれが、どのように面倒をみるのか、クルーは感染していないのだろうか、それらを検討したのだろうか。

小柳剛『パンデミック客船 「ダイヤモンド・プリンセス号」からの生還』(KADOKAWA)

もし検討したならば、何十人もの感染者を出してしまった、その結果に対する反省はどこにあるのか。

そのような気配は橋本副大臣の口調からは一切感じられなかった、このことは絶対に忘れないだろう。極端をいうなら、乗客、クルーともども潜在的感染者として座敷牢に閉じこめなければならない、そんな無意識が働いているのではないかとさえ感じられた。このような乱暴さは、国内で感染が拡大したときの安倍首相の「明後日から一斉休校」といった、あの乱暴さに酷似していたと思える。そこには弱者に対する目配りである“繊細な手つき”というものはまったくなかったからだ。

厚生労働省の顔がそれまでまったく見えず、いろいろな改善が厚生労働省によるものか、それとも船側によるものかがわからなかった。わずかにS記者の情報により、薬の配布は厚生労働省だと知っただけだった。

それも公式な船内放送で知ったわけではない。

今日、突然、厚生労働省が顔を現した途端、今までの実績の自慢げな放送をはじめるとは、これを驚かない乗客はいなかったはずだ。たしかこの日はバレンタインデーだった。私たち夫婦は、この日を“バレンタインデーの悪夢”と呼んだ。(続く)

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