はじめから下船させ、外の施設で隔離をするべきだった
要点は八十歳以上で窓のない部屋にいる乗客、あるいは慢性の持病がある乗客を重点的に検査し、下船させていこうということだ。陽性者はいうまでもないことだが、ご老人、体調不良者などの弱者は早く下船させるべきだったのだ。
いつのころからだろうか、厚生労働省の隔離方法は失敗しているという世の中の論調が多くなってきた。とくに海外のメディアの批判が多くなったように思う。私もいくつかの批判をネットで目にした。
これだけの感染者が出てしまったことは失敗といわれても仕方がない。たしかこの日までに感染者は218人にのぼっていたと記憶している。このような論調、とくに海外の批判を意識してかどうかはわからないが、十四日間という健康観察期限を表面上維持しながら、弱者から下船させようという動きが出てきたように思う。
まず手はじめが陰性者に船にとどまるか、外の施設に移るかの選択をさせたことにそれは現れていた。何をもって今ごろこんなことをはじめるのか、船が危険だとわかったからか、それならはじめから下船させ、外の施設で隔離をするべきだった。このような不思議なことが現れだしたのがこの時期だ。
考えられることは、隔離するにあたり、その基本方針が厚生労働省には最初からなかったのではないかということだ。現政府の弱点は、世論の動向、つまり支持率と海外、とくにアメリカの動向と顔色だけで成り立っていることだ。どこの政党も支持率には重点をおかなければならないが、とくに現政権はその傾向が強い。それは厚生労働省のこのクルーズ船における隔離政策にもよく現れていた。
乗客よりクルーのほうがもっと過酷な状態にある
なんとか世論の批判をかわすため、当初の十四日間という観察期限を一般にわからないように縮め(それは十四日後の検査ではなく、十四日以前に検査することだ)、弱者から下船させようとしだした。このような矛盾が後になって大きく現れてしまったと思う。
私はこの日にG記者に次のようなメールを送っていた。
「今のところ、香港下船の中国人が感染ルーツと考えられているのですが、これを私は疑っています。それだけか? 可能性として、船内を動きまわるクルーたちもルーツではないのか。もしクルーが原因であるなら、船内での感染拡大は防げずループのような際限のない地獄に陥っていることになるでしょう。隔離された者にとってこのような疑問が次々に湧いてきます。
クルーの方からも、とくにインド人から相当の不満が出ているようです。これは当たり前だと思うのです。乗客もクルーも同じ立場におかれているので。いや乗客よりクルーのほうがもっと過酷な状態にあるでしょう。よく反乱が起きないものだと、少なくともサービス拒否の動きが出ないものだと、不思議に思っています。
私は、だからこのループ地獄状態はバラバラにすべきと思っています。でも厚生労働省は世論を気にして、十四日間を錦の御旗に理解不能な隔離を続けるでしょう。もっというなら、厚生労働省とプリンセス・クルーズ社はゴールをどのように相談したのか、詳細な状況を理解したうえでゴールを設定したのか、わからないことだらけなのです」
厚生労働省の間違いの根本は、このようなことにあると当時私は考えていた。この日は天気がよく、バルコニーで古いタオルを敷き、二人でストレッチ体操を何時間もやった。体をほぐすというより、体操をすることで気持ちを落ちつかせる、むしろこのような目的のためにか、何も考えずに同じ体操を何回も何回も行っていた。当然届くはずであった妻の漢方薬は届かなかった。なんの連絡もなかった。