読売新聞15段一面5日連続広告展開という挑戦
新聞広告でも「フォーカス&インパクト」がアップルの存在を際立たせました。
1999年、プロユーザ向けのタワー型マシンPowerMac G3の発売に際して、アップルは当時1000万部の発行部数を持つ「読売新聞」の15段一面に5日間連続で広告を展開しました。一面広告はよくある話ですが、15段一面5日間連続はおそらく新聞広告史上、はじめてのことだったと思います。
アメリカの全国紙は「ウォール・ストリート・ジャーナル」と「USAトゥデイ」くらいで、ほかはローカル紙。印刷の質も低いので、当時のアップルにとって新聞広告を打つこと自体が異例のことでした。しかし、日本は事情が違います。日本の全国紙は世界的に見ても発行部数が非常に多く、高い印刷技術を持っています。
そこでアップル日本法人の原田泳幸社長に、日本の新聞の特性とインパクトをスティーブに説明して説得してもらい、日本では新聞も広告媒体として使うことの承認を取り付けました。なお、発売前日に掲出した初日はティザー(じらし)としてPowerMac G3の筐体のアップルロゴだけを掲出。2日目は筐体の正面。3日目は背面。4日目は横面。そして5日目はドアを開いて内面がのぞいた筐体の写真を掲載しました。
組織でディスラプションを起こすメリット
この新聞のアイデアを思いついたのはTBWAジャパンの月野木麻里氏です。締め切りまで時間がなかったためにクリエイティブチームから相当責められたようですが、大きなインパクトを残せると信じてチームを鼓舞して制作を断行、日本で独自に開発したクリエイティブの掲載にこぎつけたのです。のちにこのチームは「朝日新聞」でもPowerMac G3の広告を制作して、1999年度の朝日新聞広告賞を受賞しています。
日本の新聞広告がインパクトを創出する成果をあげたことで、日本の事例はWWマーコム(マーケティング)のベストプラクティスとして採用され、その後ドイツなどほかの国でも新聞広告が展開されることになりました。
企業にあってどうインパクトを最大化するか。これは永遠の課題ですが、組織にあってはその会社のリソース(人・物・金といった資源)を活用する以上、それらを最大限活用できる領域で活動することになります。
リスクがあっても、失敗をしても、全責任を負わされることは(経営トップでなければ)ありません。妥協するとか上司におもねるということではなく、どういう環境にあったとしても、自分の領域でオブセッションを発揮し、ディスラプションを起こす。それが結果的にインパクトを最大化します。