実は多くの起業家を生み出している

さらにタルピオットは、多くの起業家を輩出している。例えば、ファイアウォールを生み出したサイバーセキュリティ大手、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ創業者のマリウス・ナハト氏。2015年にマイクロソフトに買収されたクラウドセキュリティ企業のアダロムを起業し、2019年12月までマイクロソフト・イスラエルR&Dセンター部門長を務めていたアサフ・ラパポート氏などがいる。

タルピオットのプログラムは、もちろん起業家を輩出するために構成されたものではない。しかし、課題を見つけて解決法を生み出すクリエイティブ思考、現場の声に耳を傾ける顧客視点、協力して迅速に成果を上げるためのチームワーク、失敗を恐れず困難に挑戦する前向きさと粘り強さなど、起業家として成功する上で必須の資質を身につけるためのさまざまなヒントが隠されている。ここではその秘密を、タルピオット卒業生のトメル・シュスマン氏とともに見ていきたい。

シュスマン氏は2012年にタルピオットを卒業、4年間物理学者として防衛省で従軍した後、2年間タルピオットのチーフ・インストラクター兼副司令官を務めた。2018年にはタルピオットの卒業生2人とともに、AIやセンサー技術を活用したヘルスケアスタートアップを起業している。

約4分の1が脱落するハードなプログラム

プログラム中は、50人全員がヘブライ大学近くにある基地で生活する。ネゲブ砂漠の行軍やパラシュート降下などのハードな軍事訓練を受けながら、ヘブライ大学の授業を受け、数学と物理の学位を取得する。3分の1ほどはこの2つに加え、コンピューターサイエンスの学位も取得する。夏休みなどは全くなく、大学が休みの間は終日軍事訓練などが行われる。

タルピオットのメンバーには通常の学生の1.5倍もの単位が要求される上、並行して軍の訓練も受けなくてはならない。イスラエル軍の歴史や国家の安全保障についても学ぶほか、陸海空の現場で実際に戦車や戦闘機などに乗るなどしながらさまざまな部隊を回り、軍隊内の組織を超えたネットワークや課題解決能力を養う。プログラムは非常に厳しく、約4分の1が途中でドロップアウトするという。

約3年間(40カ月)のプログラムを経た卒業生は、それぞれのスキルや適性、希望などに応じて、イスラエル国防軍のさまざまな部隊に配属される。そして最低6年間従軍し、タルピオットで磨き上げた力を現場で発揮することになる。