暴挙ともいえる「個別処理」の欠陥
今回の金融危機の初動におけるもう1つの過ちは、システミックな問題であるのに皆が使える流動性の仕掛けをつくらないで、いきなり当局が個別案件処理に走ったことだ。
ポールソン財務長官は、3月のベアー・スターンズ危機では救済に動き、290億ドルの特別融資という公的資金付きでJPモルガンに買い取らせた。
ところが(ゴールドマン・サックス時代の仇敵である)リーマン・ブラザーズの経営危機では、「公的資金の投入は一度も考えたことがない」と突き放して救済を拒否、負債63兆円という世界最大の倒産劇の引き金を引いた。
AIGは公的資金を入れて救済することを決め、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに吸収させている。
インターネット上での「サイバー取り付け騒動」が起きて1週間で2兆円もの資金が流出したワシントン・ミューチュアルは、見殺しにされてリーマンに次ぐ史上2番目、32兆円の大型金融倒産になった。
一方、ワコビアはシティバンクに押しつけた。これは西海岸のウェルズファーゴが7倍以上の価格を提示してさらっていった。ゆっくり探せば買い手はいくらでもいた可能性があるのだ。
ポールソン氏はもともとゴールドマン・サックスのCEOである。経営者というのは、与えられた課題は解決せずにいられない生き物だ。しかし、こうした個別案件処理を続けていると、必ずマーケットでは「次に危ないのはどこか?」という破綻先探しが始まる。最後の1行になるまでこれでは連鎖が止まらない。