ワニも、安倍首相も欠けていた視点
では、両者の炎上はなぜ起きたのか。
それは、日本のネットユーザーの多くが抱く、商業主義への嫌悪感、ネット用語でいう「嫌儲」とバッティングしてしまったからにほかならない。
『100日後に死ぬワニ』は、Twitterのみで公開されていた漫画であり、ファンたちはその姿を友人の投稿のように身近な存在として日々応援していた。
その日常の中にある“空気”や“水”のように当たり前の存在になっていった過程こそが、この作品が愛されてきた最大の理由だった。
毎朝通勤路で挨拶してくれる近所のおばちゃんといってもよいだろう。
ところが、ある日、おばちゃんが通行料を理不尽に取り始めたり、モノを売りつけたりしてきたイメージだろうか。あるいは一カ月後に市議会議員として出馬するために毎朝住民に挨拶をしていた——。
親しみを込めて接していた友人のような存在が、実は自分からカネをもらうために、あるいは票田として取り込むために仲良くしていた——。
そんな手段として使われていたことが明らかになった瞬間に、一気にネット上ではワニへの幻滅が始まってしまったのだ。
ネットが大嫌いな「裏の意図」
安倍総理の星野源さんとのコラボ動画も、有名アーティストに便乗することで好感度を上げようとする意図があったと受け止められてしまった。
ネット上では、こうした「裏の意図」や「真の意図」が透けて見える汚い心を極端に嫌がるのである。
むろん、筆者はネットで無料公開された漫画が商業展開されること否定しているわけではない。ポイントは、ネットでカネを稼ぐことには適切なステップがあることを踏まえなければならないということだ。
そのために必要なのは、コンテンツを取り巻くファンが、そのコンテンツをどのように愛しているか、どのように捉えているかの文脈を知悉していることである。
安倍総理の投稿ならば、「自宅でくつろぐのではなく、音楽でコラボする」という最低限の文脈を踏襲するべきであったし、『100日後に死ぬワニ』ならば読者の余韻を消さないように、公開後数日経ってから徐々に商業展開を発表するべきだったのだ。
現代は、こうしたSNS上の空気を読まないことで、それまで築き上げた信頼を一気に失うことになる。その典型例を今回の2つの炎上は示してくれたと言えるだろう。
さて、各社の世論調査では安倍政権の支持率が急落している。衆議院の解散総選挙も噂される今年、安倍政権もワニのように100日後、消えてなくなってしまうのではないか、考えさせられる。