【ジョン・ウー】 劉備と曹操に共通する点は、2人ともリーダーとして人を見抜く目があり、よく人材を登用したことです。曹操も実はとても“才”を愛した人で、多くの人材を抜擢し、上手く登用した。文学的な教養やリーダーとしての資質でいえば、劉備は曹操に劣りました。しかし、劉備には真心があった。自分が他人より劣っていることを自覚していたので、真心を持って関羽や張飛、趙雲や孔明の才能を愛し、部下に加えたのです。その性格もあって、彼の下で働く人たちは心から劉備を尊敬し、喜んで尽くした。
古代でも現代でも、本物のリーダーは人材を評価する以外に、自分の部下や信頼する人たちに対して真心を込めて接することにより、さらに多くの助力を得てゆくものです。部下に接する真心の部分では曹操は劉備に遠く及ばなかった。
【北尾】 まったくそうだと思います。「巧詐は拙誠に如かず(巧みにだましても、拙い誠実さに及ばない)」と韓非子も言っている。誠実に人と対峙するのは何よりも大事なことだと思いますね。
【ジョン・ウー】 それは現代においても不変で、景気の良いときは往々にして見落とされますが、景気が悪くなってくると真心の大切さというものが際立ってくるように感じます。
普段から真心を込めて皆に接しているリーダーは、たとえ問題が起きても皆と力を合わせて乗り越えてゆける。『レッドクリフ』の撮影中現場でもそれを強く感じました。だから映画の中でも登場人物の特定の誰かを神格化、英雄化するのではなく、互いの心のつながりを大切にしたかった。それが現代にふさわしいメッセージだと思ったからです。