“見守る役”にとまどい始める裕次郎
そういう意味では、彼はまったく難しい人ではなかった。こちらの要求したことに、文句が出ることは一つもない。我々はそんな石原の言葉をありがたく受けて、思い切って「受けの芝居」をお願いした。もともと「太陽にほえろ!」は新人刑事の成長過程を描くことを目的としていたので、石原にはそれを温かく見守る役をお願いしたのだ。
「まあ、これは楽でいいや」
石原が軽口をたたくように言ってくれたので、うまく受け芝居のほうに持っていくことができた。
でも、しばらくすると石原のほうにとまどいが出てきた。日活時代の映画を見ると、彼はほぼ全シーンに出ている。撮影も毎日だっただろう。それに比べて、こちらでの撮影日数は2話をまとめて、セット1日、ロケ1日くらいしかない。彼はシーン全体の4分の1も出ていないのだ。
「俺はみんなの芝居を受けてやればいいんだ」
これが続いていったものだから、何か物足りなさを感じていたに違いない。石原自身が心配になってきたようだ。
「俺の出(出演場面)がこれっぽっちしかないけど、いいのか?」
「まだ(スケジュールは)空いているから、もっと出てもいいよ」
「大丈夫ですよ、いまのままで。視聴者は喜んでいますよ。石原さんがこの番組の芯であり、この番組は石原さんのものだと認識していますよ。我々もそのつもりでシナリオを作っていますから……」
彼にとって「受け芝居」も、主演なのに出番が少ないのも、初めての経験である。意外なやり方にとまどったのだろうが、我々としては何が何でも彼に受けてもらいたい。若手が走り回る。それをボスが受ける――そういう位置に彼を持っていきたかった。
勘のいい石原は、すぐにそれに気付いたようだ。
「俺は、みんなの芝居を受けてやればいいんだ」
自ら、そう言いだした。それからは、デスクに座っていたり、無線機で指示を出したり……という芝居が定着していくことになる。