「テレビっていうのは、ちゃっちい感じがするなあ」

「この役は石原さんしか考えられないのです」

石原プロ内部には「この際、無理をしないで、テレビのレギュラーを持つのがいいんじゃないですか」という意見もあった、と石原本人が語っている。それでも、彼は固辞し続けた。最後の最後に「13本だけでもいいので」と懇願して、やっと本人の了解が得られた。

岡田晋吉『ショーケンと優作、そして裕次郎 「太陽にほえろ!」レジェンドの素顔』(KADOKAWA)
岡田晋吉『ショーケンと優作、そして裕次郎 「太陽にほえろ!」レジェンドの素顔』(KADOKAWA)

結局、石原裕次郎とは撮影開始まで一度も会うことはなかった。クランクイン初日、

「俺は俳優で来たんだから、何でも注文してよ」

現場で初めて顔を合わせた時、石原はうれしいことを口にしてくれた。ニックネームの「ボス」も問題ない、という。

ところが、ホッとしたのもつかの間、セットでの撮影に入ると、石原がいきなり変なことを言い出した。

「ここの刑事部屋は便利だね」
「なんでですか?」
「壁が動くじゃないか」

そう言ったかと思うと、彼は刑事部屋の壁を押した。

「ほら、動くだろ」

例の笑顔を浮かべながら、まるでいたずらっ子のように言う。

「やっぱり、テレビっていうのは、ちゃっちい感じがするなあ」

それはそうだろう。その当時のテレビ映画の制作費は、たかだか1000万円である。それに比べて、映画の『黒部の太陽』は4億円の製作費といわれる。これではまったく勝負にならない。

「石原さん、制作費が映画と違うんだから、仕方ないんですよ」
「それにしてもだな……」

まだ何か言いたそうだったが、最後のセリフは心の中に閉じ込めてくれた。きっと「こんなセットで、よくやるよな」とでも言いたかったに違いない。

撮影に入る前、日活時代の彼を知っている友人から言われた言葉が頭をよぎった。

「石原裕次郎と仕事をするのは大変だよ……」

アクションがなくて視聴者はがっかりした

第1話の視聴率は20%だったが、第2話からガタッと落ちてしまった。

これにはいくつかの理由が考えられるが、その第一は、石原裕次郎がテレビドラマに出るというので期待したが、それまでのイメージとまったく違う石原裕次郎だったのでがっかりしてしまったということなのだろう。彼の持ち味である「アクションがなかった」ことに、視聴者ががっかりしたのだ。

先に述べたように、石原は「俺は俳優で来たんだから、何でも注文してよ」と言ってくれていた。

「いかに料理しようといいよ。俺はそれをちゃんとやるよ」