「マスク」を嫌悪する根本原因

アメリカのCDCが4月3日に健常者のマスク着用を勧める新指針を発表した際、ドナルド・トランプ大統領は「自分はやらないと思う」と述べました。その言葉について追及する記者団の質問にも、「ただ自分はやりたくないだけだ」と答えたことが話題になりました。

彼は誰に言われようとマスクが嫌なようです。最近までイギリス人もこうした気持ちを共有していたと思います。先述の通り、イギリス人は顔、特に口と鼻を隠すのがとっても嫌がります。サングラスで目を隠すのはオーケーにもかかわらず……。

身体のどこの部分を隠し、どこを露出させるかはそれぞれの文化の問題です。ある文化で隠すべきものが露出していたり、露出しているべきものが隠れていると、そこに嫌悪感が発生します。ですから、鼻口を露出すべき文化でそれを隠すのは嫌でたまらないのです。服を着ているべき空間で裸になる恥ずかしさと似た羞恥心です。

しかし文化は常に変化するもの。マスクが嫌な欧米文化の変化の可能性を示唆するのがサングラス。サングラスは強い日差しから目を守るものですが、この目を覆うということが面白い心理的作用を及ぼします。

他者から自分の目が見えないことにより、他者の視線から自分が隠れることができるのです。つまり相手から見えないところから自分は相手を見ることができます。これは着用者に安心と自信を与えてくるものなのです。

新型コロナの恐怖が、マスクへの抵抗感を駆逐し始めている

実はこれはマスクの作用と同じです。マスクを着けると安心するのは、いわばマスクに包まれその後ろに隠れることができるから。飛沫から身を守るという物理的な作用のほかに、自分に向けられる他者の視線も遮ります。

堀井光俊『マスクと日本人』(秀明大学出版)

自分が相手に見えないのに自分は相手が見えることにより、サングラスと同じような安心感と自信を与えてくれます。日本では、風邪予防や花粉症以外のただ「安心」という目的で着けている人が多いのはそのためです。

サングラスを着けている人を見ると、たまに「こわい」と思うことがありますが、一般的にはファッションアイテムとして定着しています。マスクがいかにサングラスのイメージに近づいていけるかが、イギリスならびに他の欧米各国におけるマスク普及の重要条件になってくると考えます。

イギリスでは新型コロナウイルスに対する強い不安感が、マスクに対する抵抗感を少しずつ打ち崩しています。特に感染したときのリスクが高い人にとっては、自分の身を守りたい気持ちがマスクを着けることへの恥ずかしさを駆逐します。マスクが与えてくれる安心感、心地よさに魅了されるイギリス人も少しずつ増えていくかもしれません。

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