オーバーシュートの鍵は「じわじわ増えている埼玉」なのか
このように最近になって急拡大が見られる地域とは対照的に、一時期、大きな注目を浴びていた北海道や愛知の動きは、最近は、増加はしているものの比較的、抑制的な拡大である点が目立ってきている。全国的に感染拡大が注目されて、感染防止につながる県民の自粛的な行動が推奨され、その結果、大いに県民意識が高まった効果と見られないこともない。
これらと比べて、今後どう推移していくかが不気味なのは、埼玉やその他(主要地域以外)の動きである。とりわけ、埼玉は今のところ人口当たりの感染者数・感染率が主要感染地域と比較して低いが注視が必要だ。東京、大阪、福井のような急激な感染拡大は見られないが、拡大傾向が一層上向きになってきてはいるからである。
もし、こうした地域が東京や大阪、福井のような感染の急拡大に転じたとしたら、全国的な感染拡大が現実となってしまうのである。
韓国を上回る感染率の都心部から同心円状にコロナが広がっている
首都東京が実数でも人口当たりでも、不安をかき立てるような動きを示していることは間違いない。それでは、東京の中ではどんな地域で感染が拡大しているのであろうか。
東京では、区市町村別の感染者数が3月31日時点から毎日公表されるようになった。新聞、テレビなどでは、実数の多い世田谷区(79人)などが注目されているが、地域分布の構造を理解するために重要な人口当たりの感染率はあまり報じられていない。そこで、東京都の地域別の感染者数の実数と人口当たりデータを図表3に示した。
世田谷区の感染者数の多さが注目されているが、人口が福井県よりずっと多い92万人と都内の他地域と比較しても母数が格段に大きいので当然ともいえる。
人口10万人当たり感染者数で比較すると世田谷区は8.6人とむしろ目立たない。人口当たりで感染率が最も高いのは港区の22.2人であり、この水準は、韓国の19人というレベルをすでに超えているのである(世界を見ると、4月1日時点の感染率が最も高い順に、イタリア175.1人、ドイツ81.2人、フランス76.8人、イラン54.5人、米国49.9人、英国37.8人、韓国19.1人、中国5.9人となっている)。
港区(22.2人)に次いで高い地域は、台東区(12.3人)、目黒区(12.1人)、新宿区(10.9人)、中央区(11.8人)、渋谷区(11.3人)であり、いずれも10人強のレベルとなっている。
港区を含めこうした地域の特徴は、都心である点、また、銀座(中央区)、赤坂(港区)、六本木(港区)、新宿、上野(台東区)、浅草(台東区)、渋谷といった繁華街を抱えている点である。新宿区(10.9人)と隣接する文京区(2.7人)、また台東区(12.3人)と隣接する墨田区(3.6人)の感染率は低い。隣り合わせの区でこれほど大きな感染率の差が認められるのは、やはり、大繁華街を有しているかどうかの差と言わざるをえない。
23区の中でも都心から外れた区(北区、荒川区など)、あるいは多摩地域では感染率は格段に低くなる。日本の全国平均2.8人(図表1)よりも低い地域も多いのである。島しょ部に至っては感染者ゼロ人である。都内でもこれだけの濃淡があるということは、市区町村別の感染者数が発表されなかったら分からなかったことである。