数千人から数万人の「特定多数」がターゲット

【柳澤】最初から理想のかたちでスタートできたわけですね。もう1つのキーワードの「特定多数」というのは?

【影山】不特定多数でもなく特定少数でもない人数の経済圏、ということです。具体的には数百万人レベルと数十人レベルのあいだの「数千人から数万人」の範囲の顔が見える関係性であれば、単純にコストパフォーマンスだけで測られないお店をつくれるのかなと思いました。

【柳澤】理想を追求しながら経済的にも成り立つということですね。今日お話しいただく地域通貨についても、その「ギブから始まる」と「特定多数」の枠組みで考えられていますよね。

【影山】はい。街の仲間も当然街の中でカフェをやっていたり、パン屋や八百屋をやっていたりする人もいますが、「ギブから始める」という発想を共有するきっかけになったのが地域通貨の「ぶんじ」です。

使う前に「メッセージを書く」地域通貨

【柳澤】ああー、これですね。裏にメッセージが書けるようになっているという。

撮影=プレジデント社書籍編集部
国分寺地域通貨「ぶんじ」。ぶんぶんウォークという国分寺の街歩きイベントから生まれた地域通貨。使うときに贈り手が裏面にメッセージを書いて渡すというルールがある。現在利用者は500人、通貨単位に「100ぶんじ」と500ぶんじ」の2種類がある。

【影山】はい。ざっと使い方をご説明すると、最初に街の何かごみ拾い活動とか、お祭りのボランティアとか、僕らがやっているようなお店の手伝いとか、街のために汗をかいたり、貢献したりする仕事をしてくださった方に感謝の気持ちとしてぶんじを渡します。それを手に入れた人は、いろんな場面で使えます。例えばクルミドコーヒーに来て、コーヒーを飲んでケーキ食べて、お支払いのときに100円の代わりにこの100ぶんじが使えます。使うときには1つだけルールがあって、裏面にメッセージを書くんです。

【柳澤】何を書いてもいいんですか。

【影山】はい、何でもいいんです。そんなに深く考えたルールではなかったんですが、よかったなあと思っているのは、このメッセージを書くときに、みんなちょっと反芻するんですよね。「何書こうかな?」と。そしてコーヒーを飲んだ、ケーキを食べた、おいしかった、いい時間を過ごせた、というふうに、自分の経験を振り返るんです。そうすると、いま自分がお金を払おうとしている対象は、モノではなくて、人の仕事なんだということに思い至る。コーヒーにしろケーキにしろ、それをつくって出してくれた人がいるんだな、と一瞬立ち止まって想像する。そういう契機になっているんですね、何か書くということが。

【柳澤】なるほど。何でもいいと言われるとそういうふうになるんですね。

【影山】何を書こうかなと考える時間で、いま受け取ったものと向き合うんですよ。その結果、多くの場合は、感謝の言葉が書き込まれます。